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孤ドクのグルメ

1:名無しさん:2023/09/30(土) 15:42:10 ID:kpF/kIo.0

孤ドクのグルメ

 

第X話 東京都中央区湊のパーコー麺と半ライス

 

2:名無しさん:2023/09/30(土) 15:42:58 ID:kpF/kIo.0

2021年3月某日。

日差しは温かくなってきてはいるが、やや風が冷たい日だった。

 

('A`)(久々に電車に乗ったら、やたら疲れた気がするな…)

 

世間は所謂コロナ禍であり、去年まで満員電車で通勤していた俺も、今やすっかりテレワークに馴染んでしまっていた。

 

そんな折でも、やはり出勤が必要になる日はある。

オキャクサマとの打合わせがどうとか、研修がどうとか…

人が少ないのが救いだが、久々の電車通勤は、落ちに落ちた体力にキく。

 

3:名無しさん:2023/09/30(土) 15:43:41 ID:kpF/kIo.0

月島駅で降車し、佃大橋を渡る。

隅田川を横断するこの大きな橋から眺める景色は、辛い通勤の中で数少ない楽しみの一つだ。

特に今の時期は、隅田川の川沿いが満開の桜に彩られる。

高層の建築が立ち並ぶ中の隅田川と桜という、自然と人工物のコントラストは、中々に見ものだと思う。

 

('A`)(夕方の景色もいいんだよな、川が広いから落ちる日がくっきり見えて、水面が金色に染まるんだ)

 

歩きながら横目で景色を眺めつつ、ぼんやりと考えを巡らせていた。

 

4:名無しさん:2023/09/30(土) 15:44:45 ID:kpF/kIo.0

('A`)「まだ時間あるな」

 

打合せは午後の14時からだったが、現在時刻は12時過ぎ。少し早く来すぎた。

 

('A`)(メシ食ってから会社に行こう)

 

佃大橋を渡り切ってから、会社に向かう道とは反対方向へ進む。

この辺りはオフィスビルも多い、食事をとれる場所もきっとあるだろう。

 

そんなことを考えながら数分ほど歩くと、ふとサラリーマンの集団が目に付いた。

いや、集団ではなく行列?車道にはみ出さないように、Yシャツのオッサンたちが行儀よくならんでいる。

立ち並ぶ彼らの隙間から、チラチラと電光掲示板の明かりが見えた。

 

5:名無しさん:2023/09/30(土) 15:45:51 ID:kpF/kIo.0

('A`)(ラーメン屋か)

 

近寄ってみると、ラーメン屋だった。

ガラス窓に、でかでかとメニューが貼ってある。

 

('A`)(こんなところにラーメン屋があったんだな)

 

通勤していたころは、会社が入っているオフィスビル内のコンビニや定食屋で済ませていたため、こんなところにラーメン屋があることは知らなかった。

 

考えるよりも先に、体が列の最後尾に付いていた。メニューにはラーメンの写真が…

 

6:名無しさん:2023/09/30(土) 15:46:53 ID:kpF/kIo.0

('A`)(あれ?ラーメンじゃない)

 

ラーメンの上に揚げた肉が乗っている。

パーコー麺、というヤツだ。ラーメン屋ではあるが、メインのメニューはコイツらしい。

聞いたことはあったが、食べたことはない。

 

('A`)(この店の正解は、きっとこれだな)

 

他にも広東麺、タンメン、チャーハンと色々とあったが、すでに俺の脳はパーコー麺以外を意識できなくなっていた。

 

7:名無しさん:2023/09/30(土) 15:48:26 ID:kpF/kIo.0

十数分待っただろうか。

ようやっと、自分の前に並んでいた人が店内に入った。

 

 

('A`)

 

 

('∀`)

 

 

常々思っていたが、

行列に並んでいて一番ワクワクするタイミングは「次が自分の番である瞬間」ではなかろうか?

 

8:名無しさん:2023/09/30(土) 15:49:43 ID:kpF/kIo.0

ノパ⊿゚)「いらっしゃい!一名様!?」

 

('A`)「エッアッハイ」

 

唐突に話しかけられる。店の奥さんらしい。威勢のいい声に少し驚いた。

待っている間に食券を買うように促されて、慌てて財布を取り出し購入する。

もちろんパーコー麺。

 

さらに数分待つと、店内のカウンター席が一つ空いた。

再び店の奥さんに促され、着席する。

カウンターからは、奥の調理場で目まぐるしく動いている主人が見えた。

 

9:名無しさん:2023/09/30(土) 15:50:10 ID:kpF/kIo.0

ノパ⊿゚)「ご注文は!?」

 

('A`)「エッアッハイ」

 

食券を渡す。

 

ノパ⊿゚)「半ライス付けますか!?」

 

('A`)「エッアッハ…エッ?」

 

ノパ⊿゚)「ランチタイムは半ライスが無料なの!」

 

('A`)「エッアッジャアオネガイシマス」

 

反射的に答えてしまった。

打合せ前に満腹になるのはマズイか?

いや、そもそもラーメンという選択が口臭的に…いや、今更そんなことを言っても遅いか。

 

10:名無しさん:2023/09/30(土) 15:52:10 ID:kpF/kIo.0

奥さんが主人に注文を伝えているのが聞こえた。

 

いったん落ち着き、周囲をそれとなく見渡す。

 

カウンター席には、水差しとコップ、それとティッシュ、ザーサイと小さいトングが入った金属製の器があった。

水はセルフサービスか。ラーメン屋なら、むしろその方が良い。自分のペースで飲める。

ザーサイは、周囲の客を見ていると自由にとってよさそうだ。嬉しい。

とはいえ、小皿はないので注文が届くまで待機。

 

店内に備え付けられたテレビからは、昼のニュースが聞こえていた。

 

11:名無しさん:2023/09/30(土) 15:52:53 ID:kpF/kIo.0

 

 

 

 

ノパ⊿゚)「お待たせしました、パーコー麺半ライスです!」

 

奥さんが目の前に、ドンブリと茶碗を置く。

軽く会釈を返す。

 

12:名無しさん:2023/09/30(土) 15:53:32 ID:kpF/kIo.0

…香りが、既に美味い…

 

スープは、澄んだ薄い茶色、醤油ラーメンのそれに近い。

麺はストレートの細麺。

大量に玉ねぎのみじん切りが入っているようだ。他の具はチンゲン菜。

 

そして、なんといっても!

 

13:名無しさん:2023/09/30(土) 15:54:24 ID:kpF/kIo.0

('A`)「肉だ…!」

 

スペアリブっていうのか?切られた肉が、ラーメンの上にデン!と乗っかっている。

サイズは、トンカツよりやや薄めくらいで手のひら大。それが、幅2cmほどの大きさで切り分けられている。

 

('A`)「いただきます。」

 

14:名無しさん:2023/09/30(土) 15:55:30 ID:kpF/kIo.0

まずはスープを一口。

 

('A`)(…!!)

 

('A`)(旨い!旨味!?いや、甘味!?甘い!?美味い!)

 

玉ねぎの甘味が暴力的だ。さらにそこに肉汁が混じり、飲めば飲むほど腹が空いていく!レンゲが止まらない。

 

('A`)(落ち着け、俺)

 

ひとまずレンゲを置き、箸を動かす。

 

15:名無しさん:2023/09/30(土) 15:56:16 ID:kpF/kIo.0

次は麺に行こうかと思ったが、やはりここは…

 

肉!

 

かぶりつく。

 

('A`)(美味い!)

 

スープとは逆に、シンプルな豚肉の味にスープが混じっている。これがよく合う!

衣にスープがしみ込んでいるが、揚げ物のサクサクとした食感がわずかに残っている。

 

('A`)(カツ丼とかもそうだけど)

 

('A`)(こういうサクサクとしんなりの両方が楽しめるのっていいよな)

 

16:名無しさん:2023/09/30(土) 15:57:22 ID:kpF/kIo.0

そして、ようやく主役の麺だ。

いや、このパーコー麺に限って言えばバイプレーヤーかもしれない。

とにかく、麺をすする。

 

('A`) ズルズルッ

 

かすかな小麦の風味。シンプルに美味い、期待以上。

シンプルな美味さなだけに、スープや肉の味が足し算、いや掛け算だ!

 

('A`) シャクシャクッ

 

具のチンゲン菜は、ちょうどいい箸休め。例えるなら、テレビゲームのRPGの中にあるミニゲーム。

 

17:名無しさん:2023/09/30(土) 15:58:13 ID:kpF/kIo.0

('A`)(そうだ、半ライス)

 

すっかり存在を忘れていた。

そして、注文した時にほんの少しでも「マズイか?」なんて考えてしまった自分を恥じる。

 

この肉、このスープ!プラス白メシ!

いろんな意味で、マズイわけがない!

 

肉をのっけて、ライスを一口。

 

('A`)(!)

 

レンゲにスープを入れて、そのレンゲでそのままライスをすくって、また一口。

 

('A`)(!)

 

もはや、語るまい。

 

18:名無しさん:2023/09/30(土) 16:00:00 ID:kpF/kIo.0

('A`)(おっと、ザーサイ)

 

そう、カウンター席の奥に置かれたフリーザーサイ。

 

('A`)(フリーザーサイって書くとフリーメーソンみたいだな)

 

そんなことはどうでもいい。

どう使うおうか少し考えたが、パーコー麺と半ライスの上にそれぞれ少しずつ乗せる。

 

まずは、そのままザーサイを食べる。

 

('A`)(うん、まさに「これでいいんだよ、これで」ってザーサイだ)

 

ライスとの相性もバッチし。

 

 

19:名無しさん:2023/09/30(土) 16:00:57 ID:kpF/kIo.0

ここからはもう、自由だ。

 

麺、肉、スープ、チンゲン菜、半ライス、ザーサイ。

 

組み合わせも無限大。

肉+スープ。

肉+麺。

肉+ライス。

肉+チンゲン菜。

ライス+スープ。

ライス+ザーサイ。

ライス+チンゲン菜…

 

('A`)(しまった!チンゲン菜はさっきの一口でラストだ!)

 

器からどんどん無くなっていく食物たち。

ボリューム満点だが、不思議と腹に苦しさは感じない。手も口も内臓も止まらない。

 

 

20:名無しさん:2023/09/30(土) 16:02:16 ID:kpF/kIo.0

最後は、レンゲを使うのも煩わしくなり、ドンブリを両手で抱えてスープを飲む。

 

('A`)(Twitter(現X)とかで、シャリを捨てて寿司を食うとか、衣をはがしてトンカツを食うような画像をアップして炎上してたりするよな)

 

('A`)(それは良くないことだからな。しかし、ラーメンのスープはどうだ?)

 

('A`)(みんな、当たり前のようにスープは残す。俺は、そんな現状に反対だ。スープだって飲み干すべきじゃないか?)

 

 

 

('A`)(…)

 

('A`)(…なんていうのは全部建前!!美味いから飲むんじゃい!!!)

 

('A`)ズズズズズズズズズッ!

 

21:名無しさん:2023/09/30(土) 16:03:03 ID:kpF/kIo.0

完飲は体に悪い。

と、どんな偉い医者に言われても、このパーコー麺のスープは飲みたい。飲まずにはいられない。

美味いからね!

 

肉もライスもスープも、すっかり胃の中に消え去った。

 

水をコップに注いで、一気に飲む。この水が、またよい。

塩分過多になった肉体が水分を求めているから水を美味く感じるらしいが、そんな理屈はどうでもいい。

パーコー麺完食!スープ完飲!半ライス完食!水一気!この世の真理。

 

('A`)「ごちそうさまでした。」

 

22:名無しさん:2023/09/30(土) 16:03:36 ID:kpF/kIo.0

店の出入り口を見ると、まだ列がある。

さっさと席を立った方が、店のためにもいいだろう。「長っ尻は野暮天」というやつだ。

 

ノパ⊿゚)「ありがとうございました!」

( ´_ゝ`)「…ありがとうございました」

 

威勢のいい奥さんの挨拶と、厨房の奥からかすかに主人の声が聞こえた。

 

('∀`)

 

会釈を返し、店から出た。

 

 

23:名無しさん:2023/09/30(土) 16:04:41 ID:kpF/kIo.0

涼やかな風が心地よい。

 

スマホをみると、13時を過ぎていた。

 

('A`)「…さて、行くか」

 

普段であれば、仕事のことを考えると憂鬱になる。

だが今日は違う。よい飯屋に巡り合えた日は、きっと良い一日になるだろう。

 

('A`)(帰りも寄っていこうかな。次に出勤する時があれば、また寄ろうか。)

 

 

 

後日メニューを見たところ、他にもパーコー担々麺や、半ライスセット以外にも半マーボー丼セット、半チャーハンセットなどがあるらしい。

俺は、メニューの制覇を決意した。

 

24:名無しさん:2023/09/30(土) 16:05:04 ID:kpF/kIo.0

孤ドクのグルメ

 

第X話 東京都中央区湊のパーコー麺と半ライス 完

​◆支援絵

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