ブーン系
食と旅の秋祭り
09
川 ゚ -゚)群青を蹴るようです
1:名無しさん:2023/09/30(土) 16:59:23 ID:rjM.MNd20
『ひさしぶり! いきなりだけど海行かない?』
友人にそう誘われたのは、海じまいも過ぎた九月だった。
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2:名無しさん:2023/09/30(土) 16:59:46 ID:rjM.MNd20
川 ゚ -゚) 群青を蹴るようです
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3:名無しさん:2023/09/30(土) 17:00:13 ID:rjM.MNd20
lw´‐ _‐ノv「おっすおっす」
川 ゚ -゚)「めっすめっす」
lw´‐ _‐ノv「変わってないな、クーは」
川 ゚ -゚)「シューこそ」
4:名無しさん:2023/09/30(土) 17:00:50 ID:rjM.MNd20
懐かしい挨拶もそこそこに車へ乗り込む。
忘れないうちに、コンビニで買っておいた緑茶を渡した。
シューはちょうど喉が渇いていたらしく、受け取ってすぐに蓋を開けていた。
lw´‐ _‐ノv「しごでき女だ」
川 ゚ -゚)「乗せてもらうんだから、このくらい当然だよ。運転よろしく」
lw´‐ _‐ノv「任せろ」
エンジンが唸りを上げる。ドライブの始まりだ。
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5:名無しさん:2023/09/30(土) 17:01:11 ID:rjM.MNd20
川 ゚ -゚)「どのくらい時間かかるのかな」
lw´‐ _‐ノv「ナビには一時間って出てるね」
川 ゚ -゚)「へえ。もっとかかると思ってた」
lw´‐ _‐ノv「渋滞引っ掛かったらわからんけど。ま、シーズン過ぎたし大丈夫っしょ」
水色のアルトがすいすいと道路を走る。
駅はそこそこ人がいたものの、しばらく走ると車すらほとんど見かけなくなった。
6:名無しさん:2023/09/30(土) 17:01:31 ID:rjM.MNd20
lw´‐ _‐ノv「大丈夫っぽいな」
川 ゚ -゚)「うん」
車内に流れるゆったりしたBGMのお陰か、車は法定速度のまま。
安全運転でのんびりと進んでいく。
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7:名無しさん:2023/09/30(土) 17:02:30 ID:rjM.MNd20
私は素直クール。彼女は砂尾シュール。
名前の響きまでどこか似ていて、同じクラスになった時は驚いた。
面白がったクラスメイト達に「スナオ姉妹」なんて呼ばれたりもした。
川 ゚ -゚)「シューは仕事どう?」
lw´‐ _‐ノv「あー、相変わらずよ。上司がウザいのなんのって」
川 ゚ -゚)「前に言ってたあのクソヤバ上司?」
lw´‐ _‐ノv「そうそう、そいつ。まぁ、もうすぐおさらばだしいいんだけどね」
川 ゚ -゚)「引継ぎとか面倒臭くない?」
lw´‐ _‐ノv「マジでめんどい。でも後輩が仕事できる子でさ、なんとかなりそう」
川 ゚ -゚)「へえ。よかったじゃん」
8:名無しさん:2023/09/30(土) 17:02:55 ID:rjM.MNd20
lw´‐ _‐ノv「クーは? 仕事どう?」
川 ゚ -゚)「私も相変わらず。毎日パソコンをカタカタカチカチ」
lw´‐ _‐ノv「昇格とか、そういうのはないの?」
川 ゚ -゚)「ないない。ていうか、ぶっちゃけそういうの無理。責任ある仕事やりたくない」
lw´‐ _‐ノv「はは。わかる」
ふと降ってくる沈黙。
その一滴は、画用紙に垂れたインクのようにじわりじわり広がっていく。
9:名無しさん:2023/09/30(土) 17:03:17 ID:rjM.MNd20
川 ゚ -゚)「そういえば、ツンのこと聞いた?」
lw´‐ _‐ノv「ああ、子供できたんだっけ。もう産まれたんかな?」
川 ゚ -゚)「あー……どうだっけ……私も又聞きだからなぁ」
lw´‐ _‐ノv「ていうか、ツンがママになるってびっくりだよ。想像もつかない」
川 ゚ -゚)「私はシューがママって単語使ったことにびっくりだよ」
lw´‐ _‐ノv「そこかよ。なんでだよ」
川 ゚ -゚)「だって、シューってママとか言わなさそうじゃん。母上とか呼んでそう」
lw´‐ _‐ノv「母上って」
「呼ばないし」と前を向いたままシューが笑う。
昔ならもっと奇を衒ったツッコミが入ったんだろうな、とぼんやり思った。
10:名無しさん:2023/09/30(土) 17:03:53 ID:rjM.MNd20
私達は不思議と馬が合った。
私はパン派で、シューは断然米派だったり。
好きな漫画も、好みのタイプも、何一つ噛み合わなかったけど。
ただ、他の誰よりも一緒にいて楽だった。
だから卒業した今でも、シューとだけは二人きりでも会っていた。
11:名無しさん:2023/09/30(土) 17:04:15 ID:rjM.MNd20
lw´‐ _‐ノv「ツンと旦那って、出会いマチアプだっけ」
川 ゚ -゚)「そうそう。すごいよね」
lw´‐ _‐ノv「うん。今時って感じ」
川 ゚ -゚)「私もやってみようかな、アプリ」
lw´‐ _‐ノv「でもさ、前に皆で飲んだとき、ツンが『アプリって変な奴ばっかり』とか言ってなかった?」
川 ゚ -゚)「あー、なんか言ってたね。いつだっけあれ。おととしだっけ?」
lw´‐ _‐ノv「もっと前じゃなかった? 三年前とか」
12:名無しさん:2023/09/30(土) 17:04:51 ID:rjM.MNd20
高校を卒業して十年。
進学した子、就職した子、皆道が分かれてしまった。
だから最初の数年は頻繁に集まっていた。
授業についていけないだとか、社会人生活がつらすぎるだとか、他愛もない愚痴を吐いて慰め合っていた。
いつからだろう。少しずつ距離が開いていったのは。
誰かの家で酔い潰れることがなくなって、カフェや居酒屋で数時間過ごして解散するようになったのは。
いつの間にか、ふいに降りる沈黙を気まずさと捉えるようになっていた。
13:名無しさん:2023/09/30(土) 17:05:16 ID:rjM.MNd20
lw´‐ _‐ノv「眠かったら寝てもいいよ」
その言葉が優しさなのか、気まずさを感じたくないからなのか、もうわからない。
ナビの到着予想時間までは、まだ遠い。
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14:名無しさん:2023/09/30(土) 17:05:40 ID:rjM.MNd20
川; ゚ -゚)「なんか……やけに山道じゃない?」
lw;´‐ _‐ノv「や、大丈夫! ナビは合ってる! はず!」
目指しているのは海なのに、なぜか周りは木々や田んぼだらけ。
シューは何度か行ったことはあるものの、この道を通るのは初めてらしい。
川 ゚ -゚)「あ! 今看板に海の幸って書いてた!」
lw´‐ _‐ノv「お、じゃあこっち方面で合ってるかも」
15:名無しさん:2023/09/30(土) 17:06:07 ID:rjM.MNd20
『海の幸ランチ』と掲げられたのぼりが、風に吹かれて揺れている。
最初はぽつんと立っていたそれは、車を走らせていくにつれて数を増していった。
どの店も民家のような出で立ちで、定食屋のようなものだろうかと思いを馳せた。
lw´‐ _‐ノv「クー、お腹空いた?」
川 ゚ -゚)「うん。ちょっと空いたかも」
lw´‐ _‐ノv「あとで海鮮丼とか食べよう」
川 ゚ー゚)「いいね。甘いものも食べたいな」
16:名無しさん:2023/09/30(土) 17:06:32 ID:rjM.MNd20
lw´‐ _‐ノv「前に行ったときはわかめソフトがあったよ」
川;゚ -゚)「ええ……何それ……美味しかった?」
lw´‐ _‐ノv「いや、流石に食べる勇気なかった」
川 ゚ -゚)「……ググってみたけど、しっかりめのわかめ味らしいよ」
lw´‐ _‐ノv「いやヤバいそれ。絶対地雷だわ」
声を合わせて笑う。
それにしても、シューの笑い声はこんなにおとなしかっただろうか。
17:名無しさん:2023/09/30(土) 17:06:53 ID:rjM.MNd20
lw´‐ _‐ノv「……お」
lw´‐ _‐ノv「クー、前見てみて」
川 ゚ -゚)「え?」
川*゚ -゚)「……わぁ!」
18:名無しさん:2023/09/30(土) 17:07:47 ID:rjM.MNd20
シューに促されて見た先には、絶景があった。
見渡す限りの青海原。
その真ん中でまっすぐに伸びる長い橋。
角島大橋だ。
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19:名無しさん:2023/09/30(土) 17:08:10 ID:rjM.MNd20
lw´‐ _‐ノv「くふふ。じゃあ行くぜぇ」
シューは得意げにそう言って、アクセルを踏み込んだ。
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20:名無しさん:2023/09/30(土) 17:08:32 ID:rjM.MNd20
川*゚ -゚)「おぉー……」
初めて見る角島の海は、今までに見たことがないくらい綺麗だった。
地元の海なんかとは到底比べものにならない。
コバルトブルーとエメラルドグリーンのグラデーション。
純白の砂浜も、まるで絵画のよう。
写真でしか見たことのなかった光景が、そのまま目の前にある。
21:名無しさん:2023/09/30(土) 17:08:54 ID:rjM.MNd20
lw´‐ _‐ノv「どう? 初めての角島」
川*゚ -゚)「最高!! めっちゃ綺麗!」
lw*´‐ _‐ノv「だよね! 私も初めて来たとき感動した!」
フロントミラーに映る私も、シューも、満面の笑みを浮かべていた。
なんとなく、学生時代に戻ったような気分だった。
22:名無しさん:2023/09/30(土) 17:09:28 ID:rjM.MNd20
川 ゚ -゚)「む……写真がうまく撮れない」
lw´‐ _‐ノv「車からじゃ無理だよ。着いたあとに撮ればいいじゃん」
川 ゚ -゚)「確かに」
lw´‐ _‐ノv「展望台もあるし、時間あったら寄ろう」
川 ゚ -゚)「そんなのあるんだ。うん、行ってみたい」
車はぐんぐんと進んでいく。長い橋をあっという間に渡り終えて、角島へ向かう。
23:名無しさん:2023/09/30(土) 17:11:14 ID:rjM.MNd20
川 ゚ -゚)「今日、晴れてよかったね」
lw´‐ _‐ノv「そうだねぇ」
また静かになっていく車内。
フロントミラーに映る私達も、いつの間にか元の大人びた顔に戻っていた。
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24:名無しさん:2023/09/30(土) 17:11:44 ID:rjM.MNd20
シューが車を停めたのは、海岸のすぐそばの駐車場だった。
観光地らしくだだっ広い駐車場で、奥には売店らしきものもあった。
川 ゚ -゚)「『しおかぜの里 角島』……」
なんとなく、看板に書かれている文字を読み上げた。
運転席から出てきたシューが私の横に並ぶ。
25:名無しさん:2023/09/30(土) 17:12:19 ID:rjM.MNd20
lw´‐ _‐ノv「何見てんの?」
川 ゚ -゚)「ん。あれ見てた。屋台」
lw´‐ _‐ノv「あ、本当だ、なんか屋台出てる」
lw´‐ _‐ノv「……角島オリジナル、角島焼だってさ」
川 ゚ -゚)「具材すごくない? サザエ、イカ、タコだって」
lw´‐ _‐ノv「魚介類盛りすぎだろ」
26:名無しさん:2023/09/30(土) 17:12:41 ID:rjM.MNd20
川 ゚ -゚)「おいしそうだけど、私は海鮮丼のほうがいいな」
lw´‐ _‐ノv「私も」
川 ゚ー゚)「なんたって米だもんね」
学生時代、シューは狂ったように白米を貪っていた。
運動部だったこともあるだろうけど、それにしてもとんでもない食べっぷりだったと思う。
27:名無しさん:2023/09/30(土) 17:13:03 ID:rjM.MNd20
川 ゚ -゚)「シューさぁ、オムライスおにぎりをおかずに銀シャリおにぎり食べたことあったよね」
lw´‐ _‐ノv「あー、あったあった。よく覚えてるねそんなこと……」
川 ゚ -゚)「今でもやるの?」
lw;´‐ _‐ノv「やるわけないだろ! 胃がもたれるわ!」
川;゚ -゚)「シューが米で胃もたれ……!?」
lw;´‐ _‐ノv「いや最近マジでヤバいんだよ……食べ放題とか行けなくなってきた……」
28:名無しさん:2023/09/30(土) 17:13:25 ID:rjM.MNd20
そういえば私も最近、体重が落ちにくくなってきた。
昔はそんなことなかった。学校でおやつを食べて、帰りにコンビニでホットスナックをつまんでも平気だったのに。
「ババアになりたくない」なんて笑っていたあの頃がなつかしい。
川 ゚ -゚)「こうやってゆるやかに老化していくんだねぇ……」
lw´‐ _‐ノv「しみじみと怖いこと言うなよ……」
29:名無しさん:2023/09/30(土) 17:14:02 ID:rjM.MNd20
こんな風に、昔話を話せるのもいつまでだろう。
どれも大切な思い出なのに。昨日のことのように思い出せるのに。
話せば話すほど、あの楽しかった日々が遠ざかっていく気がする。
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30:名無しさん:2023/09/30(土) 17:14:29 ID:rjM.MNd20
川*゚ -゚)「わぁーっ!!」
こんなに弾んだ声を上げたのはいつぶりだろう。自分でも少し驚いた。
川*゚ -゚)「海だあああ!」
lw*´‐ _‐ノv「海だねえええ!」
川*゚ -゚) lw*´‐ _‐ノv「わああああ!!」
lw*´‐ _‐ノv「いやなんだこのテンション」
川*゚ -゚)「ヤバい、私達おかしくなってるって。不審者だよこれ」
31:名無しさん:2023/09/30(土) 17:15:10 ID:rjM.MNd20
車から見た海が、目の前に広がっている。
対面に陸地がないおかげでどこまでも広がって、その先に何があるかも見えない。
空も海も全部青くて、境界線がわからなくなる。
lw*´‐ _‐ノv「よーし」
ふいにシューが何かを放り投げた。
放物線を描いて、砂浜に落ちて、それがシューのサンダルだとわかった。いつの間に脱いでいたんだろう。
私も慌てて靴を脱ぐ。その間にもシューは海に向かって駆けていく。「待ってよ」と叫んでみたものの、立ち止まるわけないことはわかっていた。
32:名無しさん:2023/09/30(土) 17:15:56 ID:rjM.MNd20
川 ゚ -゚)「シューってば、置いていくなんてひどいよ」
lw´‐ _‐ノv「せええい!」
川; ⊿ )「ぶぺあっ!?」
ただでさえ噎せ返るような磯の香りで満ちているのに、それをさらに凝縮したような匂いと味。
鼻の奥がツンと痛む。ああもう、今ので絶対アイライン落ちた。くそったれ。
33:名無しさん:2023/09/30(土) 17:16:21 ID:rjM.MNd20
lw´‐ _‐ノv「はっはっは、油断たいて……」
川# ゚ -゚)「どっせえええい!」
lw;´ _ ノv「ぶもっ!!」
両手分の海水を受けたシューが仰け反る。
シューは片手だったけど、私は恩も仇も倍返しにする主義だ。
34:名無しさん:2023/09/30(土) 17:16:58 ID:rjM.MNd20
lw#´‐ _‐ノv「おらっ!! おらぁっ!」
川# ゚ -゚)「えいっ! うりゃっ! でええい!」
いい大人二人がはしゃぐ光景は、そこそこ奇妙なものだったと思う。
私達だってこの場に第三者がいたら自重していた。
だけど運が良いのか悪いのか他の観光客が来ることはなくて、私達はヘトヘトになるまで水をかけ合い続けた。
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35:名無しさん:2023/09/30(土) 17:17:25 ID:rjM.MNd20
川 ゚ -゚)「シュー、ポカリあげる」
lw´‐ _‐ノv「え、いつ買ったの?」
川 ゚ -゚)「さっきコンビニ寄ったときに買っといた」
lw´‐ _‐ノv「しごでき女だ」
川 ゚ー゚)「でしょ」
36:名無しさん:2023/09/30(土) 17:17:54 ID:rjM.MNd20
脛まで海に浸したまま、二人でポカリを呷る。
しょっぱいような甘いような味が、疲れた体に心地良く染み渡っていく。
それにしても、大して動いてないのにどうしてこんなに疲れているんだろう。老化という二文字が心底恐ろしくなってきた。
lw´‐ _‐ノv「ポカリうっま。ありがと」
川 ゚ー゚)「どういたしまして」
37:名無しさん:2023/09/30(土) 17:20:20 ID:rjM.MNd20
寄せては返す波がどうにも強くて、足を取られそうになる。
足元を見ると、透き通った海水の底に自分のペディキュアが見えた。
砂粒や貝、それとよくわからない海藻が頼りなげにふらふらと揺れている。
lw´‐ _‐ノv「こんな動いたの久し振りだわ」
川 ゚ -゚)「私も。この歳になると運動する機会ないよね」
lw´‐ _‐ノv「ほんとそれ。あーあ、これでも元運動部なのになぁ」
川 ゚ -゚)「大人になったら皆そんなもんじゃない?」
38:名無しさん:2023/09/30(土) 17:20:54 ID:rjM.MNd20
成人はとうに過ぎたし、色々な経験もしてきたけど、年相応かと聞かれるとあまり自信が持てない。
いまだに心の中には、幼い自分が息づいている。
ずっとこのままでいられると信じていた。
環境が変わって、まったく同じかたちではないだろうけど、それでも大切なものは変わらないはずだと。
安い居酒屋に集まって、誰かの家に雪崩れ込む、そんな日々が細々と続いていくのだと。
39:名無しさん:2023/09/30(土) 17:22:11 ID:rjM.MNd20
でも現実はそうじゃなくて。
皆も、私も、少しずつ変わっていって。
大切なものが増えて、古いものは抱えきれなくなった。
大人になんてなりたくなかった。
ずっとこのままでいられると信じる子供でいたかった。
40:名無しさん:2023/09/30(土) 17:22:39 ID:rjM.MNd20
lw´‐ _‐ノv「やー、でも今日来てよかった。いい息抜きができたよ」
川 ゚ -゚)「荷造りは順調?」
lw´‐ _‐ノv「いやそれが全然。まだ三割って感じ」
川; ゚ -゚)「ヤバいよそれ……引っ越し来週でしょ」
41:名無しさん:2023/09/30(土) 17:23:03 ID:rjM.MNd20
シューはもうすぐ県外に行く。
片道一時間じゃ到底行けないような場所だ。車を持っていない私だと、あれもこれもと乗り継いで何時間かかるかわからない。
lw´‐ _‐ノv「私はまだいいんだけど、彼氏がね……二割も終わってないっぽい」
川; ゚ -゚)「どんぐりの背比べじゃん」
lw´‐ _‐ノv「ま、家電とか捨てていくし、持っていくものほとんどないから。多分すぐに終わるよ」
42:名無しさん:2023/09/30(土) 17:23:32 ID:rjM.MNd20
シューの彼氏と会うことはなかったけど、写真は何度か見せてもらった。
朗らかで優しそうで「こういう人と結婚したら幸せになれそう」という概念の擬人化みたいな人。
シューから聞くエピソードも微笑ましいものばかりだ。この人と一緒ならシューも幸せになれると思う。
でもこの人の転勤がなければ、シューはここにいられた。
だから私は最後までシューの彼氏を好きになれなかった。
43:名無しさん:2023/09/30(土) 17:24:14 ID:rjM.MNd20
lw´‐ _‐ノv「クーもこっちに来るときは連絡してよ。全然うちに泊まっていいし」
川 ゚ -゚)「いやぁ、新婚の家に上がり込むのは悪いよ」
lw´‐ _‐ノv「そんなの、うちらは全然気にしないのに」
シューはあまり帰省する気がない。私は地元から離れる気がない。
シューは苗字が変わる。私達はスナオ姉妹じゃなくなる。
何度も乗せてもらったタントも、向こうに持って行かず処分するらしい。
「離れてもずっと友達」なんて言葉が綺麗事だとわかってしまうくらいに、私達は大人になっていた。
44:名無しさん:2023/09/30(土) 17:24:54 ID:rjM.MNd20
多分、私達はもう会うことはない。
きっと連絡を取るのも、お互いの誕生日だとか節目の日だけになって。
「また会いたいね」と無難なメッセージを送り合うのだろう。
それぞれの場所で、それぞれの道を歩いていく。
どちらも本気じゃない約束を置き去りにして。
川 ゚ー゚)「じゃあ、そのときはお邪魔しようかな」
膝上まで海に浸かったシューが、私を振り返って笑った。
きっと全部理解している顔で。
45:名無しさん:2023/09/30(土) 17:25:25 ID:rjM.MNd20
lw´‐ _‐ノv「うん、待ってる」
シューが水面を蹴り上げる。
水の粒が太陽を反射して、眩しいくらいに光った。
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