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生姜のような痺れのようです

111:名無しさん:2023/10/02(月) 19:00:09 ID:Rf51agPQ0

 

生姜のような痺れのようです

 

 

 

 

 

 

(´・_ゝ・`)「今日寒すぎじゃない」

 

かの愛らしい猫ちゃんは寒いと丸くなるそうだけど、盛岡デミタスは寒いと2オクターブ声が低くなるらしい。

ぬくぬくの部屋で過ごしていた自分とは真反対の、全身から冷気を出してそうな盛岡が手のひらを差し出してきたので反射的に握手を交わす。冷たい。

 

(´・_ゝ・`)「僕の手が寒さに泣いてる」

 

('、`;川「手袋しなさいよ」

 

寒いのが苦手な割に厚着をしない男の指先の冷たさに引きながら早く家の中に入るよう伝えた。靴を脱いでスリッパに履き替える。ドアを閉めようとして吐いた息の白さが外気の低さを教えてくれた。

 

112:名無しさん:2023/10/02(月) 19:00:57 ID:Rf51agPQ0

 

(´・_ゝ・`)「手袋してこれなんだって。今日外出た?すごいよ」

 

('、`*川「昨日から一歩も出てない、あー良かった出なくて」

 

思ったままのことを口に出して笑ったら盛岡の氷みたいな指を首筋に当てられ家鴨みたいな声が出た。敵に背中を向けてしまった私の不注意だ。

 

(´・_ゝ・`)「おすそ分けしてあげる」

 

('、`;川「間に合ってます」

 

そんな寒い中わざわざ家まで来てもらった理由が、盛岡のレポートを借りていたことにあるから半分以上というかほぼほぼ私のせいなのでほんの少し良心が痛まないでもない。いや私がそっちに届けようかっつったら通り道だから別にいいって言ったのは盛岡なので、ちょっとは責任逃れできる気がする。

それでもマスクの下から赤い鼻の盛岡デミタスが現れたらなんとも言えない気持ちになるわけだから、私は甘い気がする、こいつに。

 

113:名無しさん:2023/10/02(月) 19:02:33 ID:Rf51agPQ0

 

('、`*川「盛岡この後なんか予定ある?」

 

(´・_ゝ・`)「んん?気になる人といちゃつく予定」

 

('、`;川「あら、そら失礼。聞いちゃってごめんなさいね」

 

こともなげにサラッとこういうことを言う。昔はいちいち驚いてたけど、例え相手が男友達だろうが親だろうが恋人から電話だとか言い腐って人の心拍数早めさせるからもう慣れた。この後誰かと会うのに大量のレポートを持って行くのは荷物にならない?と思わなくは無いけど深く聞き出して面倒な気持ちに浸る趣味は生憎無い。

 

(´・_ゝ・`)「なんで?」

 

('、`*川「手ぇ寒そうだから暖かい飲み物でも出してやろうかと思ったんだけど、そんなに時間ないんでしょ?」

 

(´・_ゝ・`)「めちゃくちゃあるけど」

 

('、`*川「そうなの?じゃあチャイでいいなら作るけど」

 

(´・_ゝ・`)「チャイってなんだっけ……あー紅茶?飲みたい飲みたい」

 

('、`*川「じゃあ座ってて」

 

114:名無しさん:2023/10/02(月) 19:04:05 ID:Rf51agPQ0

 

 

 

予定はもっと後の時間なのだろうか。それともいつも気付く事のできない盛岡のジョークだったのか。極自然に真顔でぶっ込んでくるし全て正解しか言わなそうなオーラがあるから話をちゃんと聞いてない私はよくボケ殺しをしてしまう。どうでもいい。

台所に入って、人から頂戴したスパイスを取り出す。シナモンスティックを無骨に折ってカルダモンを包丁で潰し小鍋に水と一緒に投入。少しの砂糖を入れてから煮立てる。茶葉と大事なやつを入れてからもう一回煮立たせ牛乳を加えた。

 

 

(´・_ゝ・`)「なんかいい匂いする」

 

('、`*川「んんー……甘い方が良い?」

 

(´・_ゝ・`)「あんま飲まないから相場がわかんない、甘くなくても美味しいなら、それで」

 

('、`*川「了解」

 

蜂蜜を入れた甘いやつが自分は好きだったが盛岡の舌は苦味と辛味を求めやすいのでやめておく。煮立ったものを濾してカップに注いだ。

 

115:名無しさん:2023/10/02(月) 19:04:49 ID:Rf51agPQ0

 

(´・_ゝ・`)「美味しそうな見た目だ」

 

('、`*川「美味しいとは思うんだけど人に作った事ないからそんなに自信ない」

 

(´・_ゝ・`)「熱い?…熱いね出来立てだもんね」

 

('ー`*川「フーフーしたげよっか?」

 

(´・_ゝ・`)「いらない」

 

寒い外気に触れると心まで冷たくなってしまうのか、顔も見ずに断られる。自分でふぅと息をかけてズ、とひとくち口に含めるのをただただ見ていた。

 

(´・_ゝ・`)「……美味しいじゃん」

 

"v('、`*川v"「……」

 

ハッピーな気持ちに包まれたのでピースサインを派手にしてやる。空腹は最大の調味料というのと同じで、寒い時のホットドリンクは4割増になるのかもしれない。

口元が緩くなっている盛岡を見てこちらもむず痒い気持ちになる。室内はそこまで寒く無いけど訳もなく着ているカーディガンの裾を引っ張った。

 

116:名無しさん:2023/10/02(月) 19:05:37 ID:Rf51agPQ0

 

(´・_ゝ・`)「これ…生姜?入ってる?なんかちょうど良い感じにピリッとして良いね」

 

('、`*川「あーうん、生姜をレシピよりほんの少し多く入れた。身体あったまるから」

 

(´・_ゝ・`)つ「ん」

 

⊂('、`*川「ん?」

 

先程と同じように手のひらを差し出してきたので同じように握手を交わす。するりと手が解けたかと思うと指と指の間に指と指を絡められた。

 

(´・_ゝ・`)「暖かくなったでしょ」

 

生姜効果は抜群で氷だったゴツゴツの指が人間の指になっている。すごいね。

……それにしたって確かめるのにわざわざこんなに手を繋ぐ必要性がわからない。

これなら何処でも触れるね、なんて言ってる盛岡の表情を見ながら何だかじんわり謎の熱を感じる。

 

117:名無しさん:2023/10/02(月) 19:06:03 ID:Rf51agPQ0

 

 

('、`*;川「……さっきの予定って何時頃から?」

 

暗に違うでしょ勘違いだろうから早くレポート持って行きなよの意を含ませながら恐る恐る尋ねてみた。

 

(´・_ゝ・`)「ええ?5分くらい前からかなあ」

 

 

いつのまにか手を解いてチャイを啜っている盛岡の、緩やかなカーブを描く口元に変な痺れを受けながら自分のカップに口をつける。

手や、耳が熱い気がするのは今日一日外に出ていないからに違いない。誰でもなく言い聞かせて蜂蜜を入れなくても十分美味く出来たチャイの湯気で顔を曇らせながら、舌の上でしばし小さな痺れを享受するのだった。

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