ブーン系
食と旅の秋祭り
27
まばゆいすりこみのようです
1:名無しさん:2023/10/05(木) 17:28:37 ID:Nk8QjuLI0
すりこみというものを知っていますか。ヒナ鳥が生まれて初めて見たものを親だと思い込む、あれです。
一度学習した事を長時間持続させるすりこみは、人間にだってあります。
「食事をする前はいただきますと言う」「くしゃみをする時は手を当てる」「瘡蓋は剥がさない」
今、貴方が生活をする上で『当たり前』なことは、幼い頃、親に何度も言われた事ではないでしょうか。
そしてそれが世の中の常識なのだと思っているのではないでしょうか。
幼少期、親から与えられたすりこみは軽い洗脳の類なのでなかなか消えることはありません。
仮に「食事をする前は腕を齧る」「くしゃみをする時はこんにちはと言う」「瘡蓋は青ペンでなぞる」と幼い頃に親から教えられたら、貴方にとってそれが世の中の常識として刻まれると思います。
親の言葉は強い力があるから。きっと、そうなのです。
だって───
2:名無しさん:2023/10/05(木) 17:29:39 ID:nqsT5ZLk0
⌒*リ*´・-・リ「お母さん!」
ミセ*゚ー゚)リ「はぁい、どうしたの?」
可愛らしいヘアアクセにヘアアレンジ。白とピンクの可愛いワンピース。天使じゃないかなってくらい、可愛い。
先程まで夫と絵本を読んでいた6歳の我が子が、ニコニコしながらこちらへ近寄ってきて思わずこちらも笑顔になった。
⌒*リ*´・-・リ「あのね!あした、動物園に行きたいのー!」
可愛い可愛い笑顔でそう言う娘。
対して私は物凄い顔をしていたに違いない。
ミセ*゚ー゚)リ「……え。動物園…?」
⌒*リ*´・-・リ「そう!あのね、リリ、鳥さん見たいの!」
ミセ*゚ー゚)リ「…えー」
( ・∀・)「今動物図鑑見てて実物見たくなったんだって。好奇心旺盛ですごいよな」
ミセ*゚ー゚)リ「……」
3:名無しさん:2023/10/05(木) 17:31:46 ID:ZU6RhvDQ0
のんびりとした声でそんな事を言う夫に舌打ちが出かける。溜息と一緒に噛み殺して、気持ちを落ち着かせた。
ミセ*゚ー゚)リ「……暑いし、水族館にしない?涼しいし可愛いペンギンちゃんもいるよ?」
⌒*リ*´・-・リ「水族館は前に行ったことあるよ!動物園はないから、動物園に行きたいの!」
ミセ*゚ー゚)リ「そんな…」
( ・∀・)「良いじゃん動物園、行こーよ。明日そんな暑くならないみたいだよ?ママ、付き合ってたときも動物園行かなかったからパパも何年も行ってないんだよなー」
⌒*リ*´・-・リ「やったー!明日は動物園だー!」
4:名無しさん:2023/10/05(木) 17:33:46 ID:1Pv2teZI0
あれよあれよと勝手に決められていく。
何それ、私の意見は?こういう時の夫って本当に嫌い。はしゃぐ娘の手を握って、待ってと止めた。
ミセ*゚ー゚)リ「あのね、動物園って臭いがすごいし、リリの好きな可愛いお洋服も着ていけないよ、汚れちゃうもん。それでもいいの?」
⌒*リ*´・-・リ「うん!動物だから臭いするのは仕方ないし、汚れても大丈夫なお洋服にするよ!」
( ・∀・)「ははっ、リリちゃんは賢いなぁ。じゃ、明日は動物園な」
⌒*リ*´・-・リ「わーい!」
娘に見えないところで夫を睨みつけたけど何も気付いていないようだった。頭が痛い。リリは女の子なのに。
ミセ*゚ー゚)リ(動物園なんて…)
5:名無しさん:2023/10/05(木) 17:34:57 ID:uwGrryuI0
雨降れと願ったのに、虚しくも晴天だった。
渋々用意をして、はしゃいでいる娘と夫を傍らで見ていた。
娘はモノクロのTシャツにパンツルック。女の子らしくない、あまり好みじゃない格好をしている。暖色系を着て明るい雰囲気にしてる方が可愛いのに。髪も一本で結んでるだけで何も凝ったアレンジをしていない。
溜息をギリギリで我慢する。そんな私に、夫はこれっぽっちも気が付かない。
( ・∀・)「今日はいつもみたいに写真撮りまくらないんだ?」
ミセ*゚ー゚)リ「……スマホ充電するの忘れちゃったから」
( ・∀・)「ふーん」
6:名無しさん:2023/10/05(木) 17:35:51 ID:uwGrryuI0
いつもだったらお出かけの日は娘のヘアスタイル、コーディネートの写真を撮っていた。
それから娘の表情も余さず撮って、はしゃいでるところはムービーも録画して、それから共有アプリにアップしていた。
身内はそのアプリから娘の写真を見ることが出来るから、言わばジジババ孝行。いつでも可愛い孫が見れたら嬉しいでしょう。
夫はそういうことしてくれないから、だからわたしがやってる。
でも今日は撮る気にならなかった。
だって可愛くない格好で、さらに行く場所は動物園。
ミセ*゚ー゚)リ(何言われるか、わかんないし……)
7:名無しさん:2023/10/05(木) 17:36:24 ID:uwGrryuI0
⌒*リ*´・-・リ「ねえお父さん、動物園パンダさんもいる?」
( ・∀・)「いるよー、いっぱい動物いるから楽しみだねリリちゃん」
ミセ*゚ー゚)リ「ねえ」
ミセ*゚ー゚)リ「ちゃん付けやめてって言ってるじゃん、みっともない」
( ・∀・)「……」
( ・∀・)「リリはカモが見たいんだっけ?」
⌒*リ*´・-・リ「うん!いる?」
( ・∀・)「いるみたいだよ~」
ミセ*゚ー゚)リ「……」
間違いを教えてあげたのにごめんもない。
ミセ*゚ー゚)リ(何なの)
8:名無しさん:2023/10/05(木) 17:37:58 ID:uwGrryuI0
電車に乗って何駅も過ぎて、ようやく目的の駅に着いた。
ホームに降りて改札機に行くまで、あちらこちらにパンダのぬいぐるみやシールなどがいる。
その度に娘は可愛い!と目を輝かせて立ち止まっていた。
ミセ*゚ー゚)リ「ねえ、行くんじゃないの?そんなところで止まってないで、早くしな?」
⌒*リ*´・-・リ「…はあーい!ごめんねお母さん!」
( ・∀・)「…」
改札を出ると眩しい日差しにうんざりした。
夏は終わったとはいえまだまだ紫外線は強い。日傘を取り出して差す。娘にも帽子をかぶるように伝える。天気の良さが憎かった。
⌒*リ*´・-・リ「大きーい!すご~い!」
( ・∀・)「な~!すごいなぁ」
ミセ*゚ー゚)リ「ちょっと、大きな声出すのやめてよみっともないなぁ」
⌒*リ*´・-・リ「あ、ごめんね。動物さんたちびっくりしちゃうもんね」
( ・∀・)「…」
9:名無しさん:2023/10/05(木) 17:39:17 ID:uwGrryuI0
正門から入ってすぐのところに人だかりができている。
亀がいるみたいでみんなスマホを向けていた。
⌒*リ*´・-・リ「リリもカメラあればな…」
( ・∀・)「パパのスマホ使っていいよ」
⌒*リ*´・-・リ「ほんと!?写真いっぱい撮っていい?」
( ・∀・)「その方が楽しいからね」
⌒*リ*´・-・リ「撮ってくるー!」
ミセ*゚ー゚)リ「待って、リリ」
⌒*リ*´・-・リ「?」
ミセ*゚ー゚)リ「ありがとう言った?」
⌒*リ*´・-・リ「…ありがとうお父さん!」
ミセ*゚ー゚)リ「お礼言えないとみっともないからね」
( ・∀・)「…」
10:名無しさん:2023/10/05(木) 17:45:21 ID:uwGrryuI0
動物園は広かった。あちこちに動物の檻があって、娘は嬉々としてスマホで写真を撮っている。
パンダの周りにはたくさん人がいて、全く見ることが出来なかった。
⌒*リ*´・-・リ「見えなかったね…」
( ・∀・)「まぁまた今度ね」
⌒*リ*´・-・リ「また来れる?」
( ・∀・)「うん」
⌒*リ*´・-・リ「やったぁ!」
ミセ*゚ー゚)リ「……」
何で私に何も聞かないで勝手に決めるのだろう。
ミセ*゚ー゚)リ(ムカつくなぁ)
11:名無しさん:2023/10/05(木) 17:47:20 ID:uwGrryuI0
(,,゚Д゚)「パンダー!」
⌒*リ*´・-・リ「あっ」
ミセ*゚ー゚)リ「あ」
どん!
ガシャン
(,,゚Д゚)「いってぇ!」
⌒*リ;´・-・リ「痛……」
娘と同じくらいの歳だろうか。男の子がぶつかって、娘がよろけた。
人混みで走るなんて信じられない。親は近くにいないみたいだった。それも信じられない。
(;・∀・)「ごめんね、ボク、大丈夫だった?」
(,,゚Д゚)「……ママー、ぶつかったぁ」
謝りもせずに男の子は去っていった。
ミセ*゚ー゚)リ(嘘でしょ、躾けられてないの?)
12:名無しさん:2023/10/05(木) 17:47:51 ID:uwGrryuI0
(;・∀・)「行っちゃった…リリちゃんも大丈夫?」
⌒*リ;´・-・リ「びっくりしたけど大丈夫……あっ、お父さんのスマホ…!」
( ・∀・)「あー…まぁ画面傷ついたくらいだから気にしないで大丈夫だよ」
ミセ*゚ー゚)リ「リリ」
⌒*リ*´・-・リ「は、はい」
ミセ*゚ー゚)リ「ごめんなさいは?」
ミセ*゚ー゚)リ「悪いことしたら、ちゃんと謝りな?」
私はさっきの子の親とは違う。
悪いことは悪いと教えられる。
⌒*リ´・-・リ「あ、ご、ごめんなさい…」
13:名無しさん:2023/10/05(木) 17:49:16 ID:uwGrryuI0
( ・∀・)「…」
( ・∀・)「リリちゃん、喉乾いたんじゃない?あそこの自動販売機でジュース買ってこれる?」
⌒*リ´・-・リ「うん!」
( ・∀・)「じゃあちょっと買ってきて」
⌒*リ*´・-・リ「行ってきます」
夫が小銭を渡して娘が自動販売機まで駆けていく。ジュースもあんまり買わないで欲しいって前に言ったのに、それも夫は覚えてないみたい。
何回も言わないと駄目なのかな。娘が近くにいないのを良いことに、私は堂々と溜息を深くついた。
14:名無しさん:2023/10/05(木) 17:49:51 ID:uwGrryuI0
ミセ*゚ー゚)リ「ねぇ、またちゃん付けしてる。やめてって何回も言ってるじゃん」
( ・∀・)「何なの?」
ミセ*゚ー゚)リ「え?」
( ・∀・)「今日…ってか動物園行くって決まってからずっと機嫌悪いよね、態度ひどいよ。さっきもスマホなんかよりリリの心配したら?」
ミセ*゚ー゚)リ「そんなこと…」
鋭く夫が私を睨んでいる。何で?それは私がする方じゃない?
15:名無しさん:2023/10/05(木) 17:50:50 ID:uwGrryuI0
( ・∀・)「ママ、動物嫌いじゃないじゃん。何が嫌なの?」
ミセ*゚ー゚)リ「だっ、て……暑いし臭いし…動物園って女の子が行くところじゃないじゃん」
( ・∀・)「はあ?動物園ってファミリー層とかカップルばっかじゃん、男女とか関係なく楽しめる場所でしょ?今日天気良いけど気温高くないから暑くもないし、臭いもそこまであるわけじゃないじゃん」
ミセ*゚ー゚)リ「でも…」
( ・∀・)「それからさ、みっともないって言うのやめてよ。ちゃん付けするのってそんなに駄目なことかな?」
ミセ*゚ー゚)リ「だって、身内がちゃん付けってみっともないこと、でしょ」
( ・∀・)「……はぁ」
( ・∀・)「わかった、そんな行きたくないなら一緒に来なくて良いよ。リリはあんなに楽しみにしてるのに、お前が不機嫌だと楽しくなくなるから。先、帰っていいよ」
( ・∀・)「リリにはママ体調悪くなったって言っておくから」
ミセ*゚ー゚)リ「え…」
16:名無しさん:2023/10/05(木) 17:52:16 ID:uwGrryuI0
意味が、わからなかった。
何でわたし1人で帰らされてるの?
ミセ*゚ー゚)リ「なんで?」
.
17:名無しさん:2023/10/05(木) 17:52:48 ID:uwGrryuI0
だって女の子は可愛くしてなきゃ駄目でしょう。
だって女の子は動物園なんか行かないでしょう。
だって親がちゃん付けって恥ずかしいでしょう。
だってお礼とお詫びは出来なきゃ駄目でしょう。
だってだってだってだってだってだってだって。
.
18:名無しさん:2023/10/05(木) 17:53:40 ID:uwGrryuI0
ミセ*゚ー゚)リ「……意味わかんない」
~~~♪
着信音が聞こえて、夫が謝罪の電話を寄越したんだと思って飛び出る。
そうだよね、わたし間違ってないし、娘だって、リリだってわたしがいないと楽しくないだろうし。今謝るなら許してあげるし、ここで2人を待っててあげる。
ミセ*゚ー゚)リ「もしもし?」
『ああ、ミセリ?ねぇ今日は写真のアップしないの?』
19:名無しさん:2023/10/05(木) 17:57:00 ID:uwGrryuI0
ミセ*゚ー゚)リ「え、あ……お母さん…」
ディスプレイを見ないで出てしまったので、耳元で聞こえた声にびくりと肩を揺らしてしまった。母からだった。
アプリに孫の写真が上がるのをいつも楽しみにしているのだ。
ミセ*゚ー゚)リ「今日はちょっと……あの、リリがね?私は止めたんだけどリリがどうしても動物園に行きたいって言って…それで、女の子っぽくないじゃない?だからあんまり…写真撮るのあれかなーって…」
『ええ?』
ミセ;*゚ー゚)リ「あ、や、やっぱ変だよね??ごめん、早く帰ろって言ったんだけど…」
『動物園が女の子っぽくないって何それ?』
20:名無しさん:2023/10/05(木) 18:00:56 ID:nAA5WhUg0
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*゚ー゚)リ「え?」
.
21:名無しさん:2023/10/05(木) 18:01:52 ID:RRzv4WiQ0
『あんた、昔からそういう変なとこあるわよねー。モララーさんも大変でしょう、あんたわがままだし気分屋だし…。リリちゃん可愛いからどんな格好でも似合うし、動物園ではしゃぐリリちゃん見たいわぁ。動物好きなら今度おばあちゃんとおじいちゃんが連れてってあげるって伝えといてよ』
22:名無しさん:2023/10/05(木) 18:02:45 ID:D/fmyYcE0
ミセ*゚ー゚)リ「なんで」
ミセ*゚ー゚)リ「なんで?」
ミセ*゚ー゚)リ「だってお母さんが」
ミセ*゚ー゚)リ「お母さんが言ったんじゃない」
ミセ*゚ー゚)リ「私、動物園行きたいって言ったら女の子がみっともないって。ズボン履きたいって言ったら女の子は可愛い格好しなさいって。私は真面目だから優しい旦那さん捕まえなさいって、お母さんが」
ミセ*゚ー゚)リ「だから、だから私は」
『なぁに?お母さんお母さんって……いい年にもなってあんた、みっともないわよ』
ミセ*゚ー゚)リ
23:名無しさん:2023/10/05(木) 18:05:33 ID:uwGrryuI0
すりこみというものを知っていますか。
幼少期、親から与えられたすりこみは軽い洗脳の類なのでなかなか消えることはありません。
望んでいれたわけでないタトゥーのように消しにくくタチが悪い、本人が洗脳だと気づくまで常識面してついてくる、現代に生きる呪いです。
親の言葉は強い力があるから。きっと、そうなのです。
だってお母さんが、そう言っていました。だから、そうなのです。
お母さんが言っていたので、そうなのです。
24:名無しさん:2023/10/05(木) 18:07:33 ID:uwGrryuI0
⌒*リ*´・-・リ「カモさん可愛いね!」
( ・∀・)「ね、一生懸命親ガモに小ガモがついて行ってる」
⌒*リ*´・-・リ「お父さん、すりこみってなぁに?」
( ・∀・)「うーんと、カモさんとかが産まれたとき最初に見たものを親だと思っちゃうこと」
⌒*リ*´・-・リ「最初にそうだと思ったら、ずっとそう思っちゃうの?」
( ・∀・)「そうだね。あとは…何回も言われたらそれが正しい事だって覚えたりすることもすりこみかなぁ」
⌒*リ*´・-・リ「ふーん…」
25:名無しさん:2023/10/05(木) 18:09:37 ID:uwGrryuI0
⌒*リ*´・-・リ「動物園、楽しいね!」
( ・∀・)「良かった。また来ようね」
⌒*リ*´・-・リ「……お母さん、体調大丈夫かなぁ」
( ・∀・)「リリちゃんは優しいね」
( ・∀・)「ママはなんでああなんだろ、付き合ってた頃はあんなんじゃなかったんだけどなー…」
( ・∀・)「リリちゃんはあんな風にはならないでくれよ~」
⌒*リ*´・-・リ「……」
⌒*リ*´^-^リ「うん!」
26:名無しさん:2023/10/05(木) 18:10:53 ID:uwGrryuI0
【終】
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