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魔法少女が落ちてきたようです。

 

【注意】食人描写を含む作品です。

 

 

 

 

 

 

 

 

269:名無しさん:2023/10/10(火) 01:40:07 ID:aFbJMD1o0

 

 

 

 

もうすぐで退屈な時間の始まりを告げる鐘が鳴る。

 

くあ、と小さく欠伸をした細い体の青年は、窓際の席に座りながらスマートフォンの画面を見つめていた。

その様子にため息をついて、体格のいい青年は椅子を彼の方に向けていく。

陽の光がやけに差し込む朝の日だった。

 

('A`)「ねっむ……」

 

(;^ω^)「おっお、夜遅くまでス○ラで煽り散らかしてるからだお」

 

('A`)「だって俺がホコ持ったのに援護してくんねーんだもん彼奴ら。まじむかつかね?」

 

(;^ω^)「だからって夜中に電話かけてくんなお……面倒臭い彼女か……」

 

(>A<)「ブーンきゅん♡」

 

( ^ω^)「きめぇからやめろ」

 

冗談だって、と軽口を叩き合う彼らは所謂友人関係である。

幼い頃から二人、何をするにも一緒の存在。

だからこの世界の『日常』も彼らにとっては当たり前。

 

「あ。」

 

不意にドクオが声を零す。

何だお?と言いたげにブーンが画面を覗きこめば、ゆるりとした苦笑いを浮かべた。

 

 

('A`)「また人に直撃だってよ。『魔法少女』」

 

 

ニュースアプリの小さな欄の一つ。

その見出しには『魔法少女落下。二十代女性死亡』の文字が映し出されていた。

 

 

 

 

 

魔法少女が落ちてきたようです。

 

 

 

270:名無しさん:2023/10/10(火) 01:40:40 ID:aFbJMD1o0

 

 

 

『魔法少女に愛の手を!彼女らは皆、オゾン層の上で必死に戦っています!』

 

 

―――テレビから流れるのはそんな台詞だっただろうか。

この国の人間からすれば幼い頃から聞かされていた定番のCMであり、うんざりするほど変わらない謳い文句であった。

 

事の発端は数十年前に遡る。

突如飛来した地球外生命体に立ち向かうため、現れた何人もの魔法少女たち。

最初こそは街を破壊する恐ろしいモンスターを瞬く間に倒すその姿に世界中の人は感謝した。

 

しかし画面の中のように現実は上手くいかず、彼女たちが戦う度に街の外観は崩れていく。

修理の資金も国の金から。魔法少女自身からは請求されず困窮が何年も続いた。

 

次第に魔法少女に向けられていた目は肯定的なものから否定的なものへと変わる。

 

地球外生命体は自衛隊で倒せないのか?

市民に対する危険性は考慮しないのか?

 

大規模なデモ活動の末、ある日魔法少女はこう宣言した。

 

 

 

 

『―――私たちは、オゾン層にある敵の本拠地に乗り込みます』

 

 

272:名無しさん:2023/10/10(火) 01:43:13 ID:aFbJMD1o0

 

('A`)「で、元通りなら良かったのにな」

 

ジュル、と紙パックのいちごオレを肺活量で潰しながらドクオは呟く。

コンビニの前のベンチの上、隣でストローを開けるのに苦戦するブーンを横目で見ながらすっかり空っぽになったそれをゴミ箱に放り込んだ。

 

('A`)「まさか平穏の代わりに晴れ時々魔法少女になるとはなー」

 

(;^ω^)「まぁきっとその子たちだって落ちたくて落ちてるわけじゃないだろうし……ぐっ、ぐ……」

 

('A`)「でももう少し死に場所考えろって。現に死者出てんじゃん」

 

(;^ω^)「オゾン層から落ちてそのまま直撃したら……そうなる、おね。んぐぅ……」

 

('A`)「……開けてやるか?それ」

 

(;^ω^)「お願いします……」

 

ストローの袋が破ける音と蝉の声。

開け放たれたストローをカフェオレの紙パックに挿して咥える。

 

(;^ω^)「あー!僕のカフェオレ!」

 

('A`)「一口くらいくれよ。あーうま」

 

もう!と怒る友人を後目にケラケラ笑って、一口減った紙パックを彼に渡す。

ごくん、とようやく飲み始めた彼を横目に、ドクオはベンチの上で胡座をかいた。

 

 

273:名無しさん:2023/10/10(火) 01:43:47 ID:aFbJMD1o0

 

('A`)「まぁ、昔みたいに建物も壊れる避難警報も鳴りまくる暫く交通がストップする、みたいなことになるよかマシか」

 

(;^ω^)「んぇ?……ああ、さっきの話かお?」

 

('A`)「そーそー、定期的に人が降るだけ。被害も最小限。当たった人はー……ご愁傷様、てことで」

 

(;^ω^)「簡単に言うけどその当たった人からしたら理不尽極まりないと思うお。ご家族さんだって、憤りとかあるだろうし…」

 

('A`)「魔法少女の家族からは何も取れないんだから仕方ねぇだろ。法律なんだから」

 

飲み終わった紙パックがまたゴミ箱に放り投げられる。

きっと魔法少女もこんな感じ。死んで要らなくなったから捨てられた。それだけ。

 

('A`)(底にいる俺らには関係ねぇ話だよな)

 

普段通りの日常と、広く怖いくらいの青天井。

そこから降ってくるキラキラとした廃棄物に意味などない。

 

('A`)(……あっつ)

 

汗が地面を濡らす。帰ろうかとブーンが声をかけるのを聞きながらドクオが立ち上がると一際強く風が吹いた。

 

 

 

―――ガシャン。

 

 

 

何かが落ちてきたような音が響いたのはそんな時。

ドクオとブーンは一瞬あっけに取られたかのように目を合わせてから、音のした方向に目を向けた。

 

 

274:名無しさん:2023/10/10(火) 01:44:24 ID:aFbJMD1o0

 

 

 

ξ ⊿ )ξ

 

 

 

魔法少女、だ。

 

金色に光る髪の毛がクルクルと螺旋を描きながらツインテールになっているその少女は、コンビニ横の植木の上ですっかり事切れている。

 

その様子に目を見開いて驚くこと数秒。時が戻ったのはブーンが少し慌てたように携帯を取りだした時であった。

 

(;^ω^)「びっ、くりしたぁ……タイムリー過ぎるお」

 

(;'A`)「話してる最中に落ちてくんなよ……まじ焦った……」

 

(;^ω^)「……こういう時どうするんだっけ」

 

(;'A`)「知らねぇよ、俺初めて見たし……」

 

ポンポン、と携帯で調べ始めたブーンを横目にドクオは落ちてきた魔法少女に近づく。

何が致命傷なのか、傷一つもない真白の肌からは特定出来ない。

ただ、その姿が凄く美しいのだけはわかった。

 

('A`)(……すげぇ)

 

自身の汗が付くのさえ阻まれるような、芸術品に近いそれ。

ジリジリと思考が夏の陽射しに焼かれていく。

 

( A )(ネットで見た情報だけど、確か)

 

好奇心を抑えきれなくてそっと触れた肌は酷く冷たい。

息を飲み込んで、肌に一つ、爪を立てる。

 

ぷち、と切れる音がした。

 

 

276:名無しさん:2023/10/10(火) 01:46:35 ID:aFbJMD1o0

 

( ^ω^)「あー……ここに電話すりゃあいいおね……えーと、番号……」

 

(; A )「……なぁ、ブーン」

 

( ^ω^)「んー?待って、後にして欲しいお、先に電話……」

 

(; A )「ブーン!」

 

(;^ω^)「ちょああ!?な、何だおドクオ……」

 

腕を掴んで制止したドクオをブーンは見つめる。

 

後に聞けばきっと、煩い蝉のせいだと言い訳するだろう。

きっと、文明の利器が悪いのだと責任転嫁するだろう。

 

頭の片隅にあった興味がドクオの思考を蝕んでいく。

息を再び飲み込んで、ドクオは少し笑みを浮かべながらブーンに問いかけた。

 

(;'∀`)「……知ってるか?」

 

 

 

「魔法少女って、美味いんだってよ」

 

 

 

地面に落ちた汗が直ぐに蒸発した。

けれどもドロリとした何かはそう簡単には消えてなくならなかった。

 

 

277:名無しさん:2023/10/10(火) 01:47:16 ID:aFbJMD1o0

 

 

 

―――――――………

 

キッチンからいい匂いと耳につく心地よい音が聞こえる。

しかしそれの正体にため息を着くとブーンはその足のままキッチンを覗いた。

 

(;^ω^)「本当に食べるのかお……?」

 

('A`)「丁度母ちゃん夜勤だし、父ちゃんは泊まりだから帰ってこねえし、今しかないだろ」

 

(;^ω^)「そりゃあそうだけど……」

 

('A`)「お前だってもう母ちゃんに食べてくるって連絡したんだろ?腹くくれって」

 

(;^ω^)「あれはドクオが勝手に……」

 

文句を言いたげに目を逸らして、逸らした先の血塗れに目を見開いてブーンはそのままリビングへと戻って一息ついた。

豚や牛は何も思わないのに、自分たちと近しい姿になるほど嫌悪感が増す。

 

(;ㅤωㅤ)(正気じゃないお……)

 

今料理している彼も、その料理を待つ自分も。

きっときっとまともじゃない。

分かっているのに止められないのはそれのせい?

 

考えるのはもうやめようと先程よりも深く息をつく。

やがて運ばれてきた皿に目を向ければ、想像とは違う彩りに思わずドクオの顔を覗き込んだ。

 

('A`)「シーザーサラダ。まず前菜食いたいだろ」

 

 

278:名無しさん:2023/10/10(火) 01:47:56 ID:aFbJMD1o0

 

(;^ω^)「……コース料理みたいにするのかお?」

 

('A`)「いや?俺が食べたいだけ」

 

自分本位め、と目を細めたブーンを横目にドクオはケラケラ笑いながらドレッシングをかけていく。

緑の上が白く染っていけば中身は殆ど見えなくなった。

 

('A`)「へーい卵ぷちー」

 

( ^ω^)「卵は満遍なくいくようにするお」

 

(;'A`)「無茶言うなよ」

 

白の中に黄色が混ざり始めれば先程の血塗れの事は頭からすっかり消えてしまう。

ドロドロと染まりきったそれ。皿に分けても人の体らしきものは見受けられない。

 

( ^ω^)人「頂きます」

 

( 'A`)人「ん、頂きます」

 

手を合わせて二人で声を合わせた。

箸で摘んで口の中に放り込んで咀嚼する。

パリ、と心地よい音が聞こえてブーンは顔を上げた。

 

(*^ω^)「んー!レタスがシャキシャキで美味しいお!」

 

(*'A`)「半熟卵がいい感じに絡み合って野菜だけでもうめぇなこれ」

 

トロトロの白身と共に野菜を喉に流し込む。

モグモグと咀嚼すると更にパリパリと音が聞こえてブーンは楽しそうに口角を上げた。

 

 

279:名無しさん:2023/10/10(火) 01:48:28 ID:aFbJMD1o0

 

(*^ω^)「すっごい!クルトンもサクサクだし、よくドレッシングと絡むお!」

 

こくんと飲み込んで何口目かを箸で掬う。

と、ドクオはじ、とブーンを見つめてテーブルに肘をつけば勿体ぶったように口を開いた。

 

('A`)「俺、クルトン入れてないけど」

 

( ^ω^)「………………え?」

 

暫し見つめあってから、ブーンは恐る恐る食器の中を探る。

どろりとしたドレッシングの中から出てきたのは小さく白い”何か”だった。

歯を立てて齧れば先程と同様カリッとした音が響く。

そのままブーンはドクオの方を見ると何も気にせずにサラダを食べながら他人事のように言葉を吐き捨てられた。

 

('A`)「それ爪。二十本分の」

 

( ^ω^)

 

(;^ω^)

 

('A`)「サラダには入れてないとでも思ったか?」

 

口元を抑えて、息を着く。

舌で破片を確認してそれが確実に爪の形をしているのを察すれば眉間に皺を寄せてドクオを睨んだ。

当のドクオは素知らぬ顔。何の躊躇も無く一口、また一口と食べる姿にブーンは諦めたのか、皿の上のサラダに再び手をつけた。

 

(;^ω^)「……じゃあこのサッパリしてて肉厚のカリカリベーコンは?」

 

('A`)「それ指。二十本分」

 

(;^ω^)「これも二十本分かお……うぅ……」

 

 

280:名無しさん:2023/10/10(火) 01:48:59 ID:aFbJMD1o0

 

指。爪。

人の姿から取られた正体を知ってブーンは顔を顰める。

普通に考えれば非人道的であり、グロテスクであり、常人からしたら触れがたい料理。

 

―――それなのに。

 

(;^ω^)(何で、もっと食べたいだなんて思ってしまうんだろう)

 

ごくりと喉を鳴らしてパリパリと音のなるサラダをドレッシングと共に口の中へ運んでいく。

すっかり無くなった彼女の指。

勿体ないとすら思える自身の頭が信じられなくて、ブーンは大きく息を吐いた。

 

('A`)「おいおい、お楽しみはこれからだって」

 

な?と言う友人の姿が酷く怖く見える。

けれど悪魔の誘いのようなその言葉が、魅力的に思えてしまって。

 

(;^ω^)

 

(;^ω^)”コクン

 

首を一度縦に振った。

キッチンから香るクリームのような香りに腹が鳴る。

不思議と、罪悪感は少しづつ薄れていっていた。

ただただそれを食べたいという欲だけが魔法のようにそこにあるのみ。

 

次にブーンの目の前に置かれたのは、ホワイトソースがたっぷりとかかった金色の髪だった。

 

 

281:名無しさん:2023/10/10(火) 01:49:33 ID:aFbJMD1o0

 

所々に散らされたチーズがふわりふわりと髪の隙間に沈んでいく。

ベーコンはどうやら市販のブロックベーコンのようだが、それでも異様なのは変わらなかった。

 

(;^ω^)「……食べられるのかお?髪って」

 

('A`)「さっき一本味見してみたけど食えるぞ。歯で噛み切れるし」

 

(;^ω^)「何でそんな柔らかく―――」

 

そこまで話してはっと気がつく。

先程の指も爪も一噛みしただけで二つに分かれてしまうくらい柔らかかった。

人間の体なら固くはなるがそう柔らかくはならないだろう。

 

魔法少女、だからなのか。

 

不思議に思いながらブーンはソースに絡めてから、髪の毛をパスタのようにフォークに巻き付けて口元に持っていく。

 

匂いは無い。ただクリームの濃厚な香りとチーズの独特の香りが空きっ腹へと響いて、堪らず口の中に運んだ。

 

(*^ω^)「……!細いのにすっごいクリームと絡んでモチモチしていて美味しいお……!」

 

(*'A`)「細い麺はあんまりソースと絡まねぇのにな……チーズもあるから濃厚でフォーク止まんねーなこれ」

 

 

282:名無しさん:2023/10/10(火) 01:49:56 ID:aFbJMD1o0

 

( ^ω^)「……というか絡みにくいの知ってるのに何でカルボナーラに……」

 

('A`)「あー……金色だったからさ、赤とかより白の方が似合うかなー……って」

 

色合い的に天使みたいだしよ、と笑う友人を見ながらゴクリと金色を飲み込む。

 

(;^ω^)(そういえば、何で美味しいなんて情報を知ってるんだお、此奴)

 

それだけじゃない、何でそんな情報が出回っているのか。

最初に食べようと思ったのは、どこの誰なのだろうか。

 

くるりとフォークを回して口の中へと運んでいく。

魔法少女が己の体の中に溶けて、まるで狂気をそのまま飲み込んだような気がして、それでも手を止められずに皿の中を少しずつ減らしていった。

 

(;^ω^)「ご馳走、さまでした」

 

手を合わせて空になった皿に頭を下げる。

 

('A`)「俺も。ご馳走様でした」

 

こくりと頷く目の前の友人に目を向けて、躊躇無く口を開いた。

怖いはずなのに、何故か。

 

( ^ω^)「ドクオ」

 

('A`)「んだよ」

 

( ^ω^)「……その」

 

 

次の料理は、何だお。

 

 

友人の顔は、よく思い出せなかった。

 

 

283:名無しさん:2023/10/10(火) 01:50:47 ID:aFbJMD1o0

 

 

 

 

('A`)「もつ煮込みとかと悩んだんだよ。人型とかってもつ多いしいいかなー、って」

 

ドクオは説明しながらブーンの前に料理を置き、ついでにと言わんばかりにグラスに緑茶を注ぐ。

 

('A`)「でもなぁ、いきなり和食にすんのもなんかこー……違ぇだろ?」

 

現れたのは茶色の楕円状の料理。こんがりと焦げ目が付いていて、そこにかかるデミグラスソースが食欲を更にそそって行く。

 

( ^ω^)「だからハンバーグにしたのかお」

 

(;'A`)「大変だったぜひき肉にすんの。柔らかいとはいえ量もあるしよ。おかげで何個かパック出来ちまったわ。まあいつでも食えるって考えた方がいいか」

 

自分の分も席に置いて三度目の頂きます。

箸で真っ二つに割ってみるとミンチにし切れなかった大きな肉片と肉汁が零れた。

 

(;'A`)「あ、粉々なってねぇ」

 

( ^ω^)「別に平気だお。これくらい寧ろご褒美みたいなもんだお」

 

ブーンは何処か虚ろな目を向けながらいくつかに分けたハンバーグを一つ口に入れる。

じゅわりと蕩けるような肉汁が飲み物のように溢れては喉を湿して、口から出そうになるのを何とか抑えながら飲み込んだ。

 

 

284:名無しさん:2023/10/10(火) 01:51:13 ID:aFbJMD1o0

 

(;^ω^)「んぶぇっ、溢れる」

 

(*'A`)「んわー!!肉!って感じすんなこれ!個人的にめっちゃ好きだわ」

 

(;^ω^)「それはドクオが単に肉好きなだけだお。でも確かにデミグラスソースのコクがハンバーグに絡んで一層濃厚なのが分かるおね」

 

慣れたように彼女を食らう。

これはどこの部位なのだろう、と考えるのはもうやめていた。

ただただ目の前にあるご馳走を食べ尽くしたくて堪らない。

 

(*^ω^)「おー……弾力もあって噛みごたえもおるし、その辺のステーキよりジューシーじゃないかお、これ」

 

(*'A`)「ボリュームもあるから食った気にもなるしな……あー、腹いっぱい……」

 

(;^ω^)「もう食べたのかお……はっや……」

 

そんな彼自身もあと一口で食べきってしまう。

普通の肉じゃ味わえない不思議な肉。

箸で挟んで、口を開いてそれも口の中に放り込めば再び嬉しそうな声が零れた。

 

(*^ω^)「はふ……すぐ食べちゃうの勿体ないおこれ……」

 

(*'A`)「パック作って正解だったかもな、これ。また食べられるって考えられるのはでけぇや」

 

罪悪感が肉汁と共に流されて薄れていくのを感じる。

そういえば、さっき何を考えていたっけか。

 

( ^ω^)(……まぁ、いいや)

 

空の皿を名残惜しそうに見ながら両手を合わせる。

 

「ご馳走様でした」

 

友人と出した言葉は重なっていた。

 

 

285:名無しさん:2023/10/10(火) 01:51:48 ID:aFbJMD1o0

 

 

 

『魔法少女に愛の手を!彼女たちは地球に帰ることを望んでいます!』

 

( ^ω^)「おーん……まだCMかお。」

 

非日常を終えて、いつも通りの光景をリモコン一つで変えていく。

明けたばかりの番組はトークバラエティ番組なのか、大物司会者が話をしている所だった。

 

タイトルは魔法少女について。

 

( ^ω^)(………………)

 

随分とタイムリーな内容に笑みもこぼさず画面を見つめる。

 

この中にも食べようとした人はいるのだろうか。

魔法少女を、いたい気な少女たちを解体して食べて、一つになろうとした人は。

 

( ^ω^)(馬鹿馬鹿しい考えなのは分かってる、けど)

 

テレビを消して、大きく息を着く。

味を思い出しては腹を空かせて、天を仰いだから携帯を取りだした。

 

最初の時は淡々と業者を呼ぼうとした携帯。

自分たちと同じ人だと思っていたあの時。

きっともう戻れない。戻ろうともしない。

 

('A`)「……ブーン?」

 

(;^ω^)「わぅっ」

 

名前を呼ばれてビクリと体を跳ねさせた。

振り向けば不思議そうな顔をしたドクオがいる。

どうした?と言いたげのその顔に首を振って答えれば逆に此方が「どうかしたかお?」と聞く。

それに何となく察したのか、追求することなくドクオは答えた。

 

 

286:名無しさん:2023/10/10(火) 01:52:16 ID:aFbJMD1o0

 

('A`)「デザート出来たからよ。食べようと思って」

 

( ^ω^)「デザート?」

 

('A`)「おうよ、とっておきのを冷やしてたんだよな」

 

自信満々に言うドクオが持つお盆の上には布がかかっており、自慢の逸品は見えない。

首を傾げてからブーンはテーブルの方に寄り、布が取られるのを待つ。

 

('A`)「多分、ここが一番うめーと思うんだよ」

 

そう言いながらお盆を置き、白い布がはらりと取られた。

 

薄いピンク色の、沢山皺が入った半円形のもの。

教科書や模型だけで見かけたことのあるそれは、フルフルと揺れている。

 

(;^ω^)「……これ」

 

('A`)「おう」

 

スプーンを渡してドクオは笑う。

 

('∀`)「―――脳だよ。脳みそ。気になるだろ?ブーンも」

 

ごくりと喉が鳴った。

渡されたスプーンを怖々と受け取って、ピンクの表面を軽くつついてみる。

小さく揺れて、元に戻ってはその場に佇む彼女の思考。

意を決してスプーンを入れてみると少しの抵抗を感じつつも一口目を容易くすくい上げることが出来た。

 

 

287:名無しさん:2023/10/10(火) 01:52:42 ID:aFbJMD1o0

 

(;^ω^)「お……おぉ……柔らかいお……」

 

('A`)「ムースみてぇだよなこれ。シャーベット期待して冷凍庫入れてたんだけど失敗だったかな」

 

(;^ω^)「いやでもちょっとジャリジャリしてるような……シャーベットというかジェラートというか……」

 

しげしげと観察すれば凍った先の彼女の色がキラリと揺れた気がする。

意を決して、震えるスプーンをゆっくり口元に持っていくと一気にその先端を咥えた。

 

瞬間甘酸っぱい味が口いっぱいに広がり、ほのかに甘い香りが鼻腔をくすぐる。

濃厚な甘さが酷く暴力的なのにフルーツのような酸っぱさがブーンの食欲をただ引き立てていた。

 

(*^ω^)「なん、なんだおこれ……!濃厚ないちごムースというか、甘くて酸っぱくてすっごい美味いお……!」

 

(*'A`)「マジ?俺も食う。左脳食う」

 

(;^ω^)「何で左脳限定なのかお……なら僕は右脳!とはならないお……」

 

少し呆れながらも一つ、また一つと脳がスプーンで抉られていく。

ここに彼女の記憶もあったはずなのに、今じゃただ美味しさのフレーバーになるばかり。

 

 

288:名無しさん:2023/10/10(火) 01:53:08 ID:aFbJMD1o0

 

半分ほど食べ進めた頃、何かを思い出したかのようにドクオが「あ」と声を零した。

 

('A`)「そういえば取っといてたんだっけ、あれ」

 

( ^ω^)「?」

 

キッチンに戻り、何かをガサガサと取り出す音を出す。

それから機械を動かす音と、甘い香り。

手持ち無沙汰に行儀悪くスプーンを咥えていたブーンの前に現れたのはその少し後のことだった。

 

('A`)「じゃーん」

 

とブーンの目の前に置いたのはミルクソーサーに入った赤い液体。

鼻につく匂いは少し甘いものの、特有のものが混じっているのに気がつけば呆れたように再度ドクオに目を向けた。

 

(;^ω^)「……血かお、これ」

 

('A`)「せいかーい。正しくは心臓の血、だけどな。取っといたのミキサーにかけてみたんだよ」

 

相変わらず趣味が悪いと言わんばかりに睨んでくるブーンを差し置き、ドクオは真っ赤なソースを半分になった脳みそにくるりとかけた。

 

更に広がる甘い香り。血の香りもするのに美味しそうだと感じてしまうのが不思議で、ブーンも恐る恐るミルクソーサーを手に取ればドクオの真似をするようにくるりとかけた。

 

 

289:名無しさん:2023/10/10(火) 01:53:34 ID:aFbJMD1o0

 

そのまま、よくソースを絡めて一口。

先程とは違い酸味が強くなったそれはブーンを喜ばすのには十分だった。

 

(*^ω^)「あっまぁ!!」

 

(*'A`)「すっげぇあめぇ!甘酸っぺぇ!」

 

(*^ω^)「あれだお、ラズベリーソースみたいだおこれ!ベリー系が強くなったお!」

 

楽しそうにはしゃいで、少しずつ彼女が無くなっていく。

心と脳がなくなったら、果たしてそれは人と呼べるのか。

空になった皿に残るソースすら綺麗に平らげた後、ドクオはミルクソーサーの中も口の中に流し込む。

 

(;^ω^)「あー!狡いおドクオ!」

 

(*'A`)「残念もうねぇよ。あー美味かった」

 

口の端に着いた血がボタリと零れて床を汚す。

勿体ないと感じ、けれどもそれ以上は何も考えずにドクオを見た。

 

ティッシュで彼が口元を拭っている。

伸びた血液が未だに残る中、ドクオは視線に気づいてこちらを見、そしてニッコリと笑った。

 

('∀`)「……ご馳走様でした」

 

その言葉がやけに恐ろしく思える。

だが、最初に怖いと思った時とは違う恐ろしいだ。

 

(;^ω^)「………はは」

 

少しだけ笑って、ブーンは手を合わせる。

そして何事ともなかったかのように、小さく呟いた。

 

 

 

「………………ご馳走様でした」

 

 

290:名無しさん:2023/10/10(火) 01:54:06 ID:aFbJMD1o0

 

 

 

―――――――………

 

( ^ω^)「あ、魔法少女今度はビルに直撃だってお」

 

('A`)「うわこっわ、でも人よかマシか」

 

何気ない会話。何気ない日常。

携帯を見ながら呟いて、他人事のように過ごす毎日。

この間と同じように飲み物を飲みながらただ駄弁る。

 

いくらどれだけ非日常を体験しても戻らざるを得ない時もあった。

魔法少女が落ちるのをただ眺めるだけ。普通の人と同じように。

 

ただ、少しだけ。

 

( ^ω^)「……勿体ないおね」

 

('A`)「………そうだな」

 

少しだけ、非日常が毒となって蝕む日もある。

 

あーあ、なんて物足りなさそうに携帯の電源を落としてから青い青い空を見上げた。

 

('A`)「……ずーっとあそこにいるんだよな、魔法少女」

 

( ^ω^)「……そう、だおね」

 

それだけを交わしてただ見つめる。

あの空の向こうの正義の味方は、あの時食べた彼女とは違う味がするのだろうか。

 

('A`)

 

('A`)「あ」

 

不意にドクオが声を上げた。

どうかしたのか、とブーンが問う前に聞き覚えのある音が鳴る。

 

 

―――ガシャン。

 

 

291:名無しさん:2023/10/10(火) 01:54:32 ID:aFbJMD1o0

 

何かが、落ちてきたような音。

二人が恐る恐る音のした方を向けば『それ』は五体満足でひしゃげていた。

 

川 - )

 

あの時とは違う黒髪の少女。

これまた外傷の見当たらぬ彼女に二人は近づく。

 

落ちてきた、魔法少女がまた、自分たちの前に。

青白い真っ白い肌が既に死んでいるのを告げている。

それを確認してから二人はじっとそれを見つめていた。

 

(;*^ω^)「……ドクオ」

 

(;*'A`)「……おう」

 

蝉の声が次第に遠くなる。

ごくりと息を飲み込んで二人は顔を見合せて、ゆるりと笑った。

 

(;*^ω^)「今度は僕、肉じゃがとかが食べたいお」

 

(;*'A`)「……じゃあ今日は和食にすっか」

 

母ちゃん達は出かけるかな。

何気ない会話を重ねて狂気を誤魔化す。

 

きっと変わってしまったのは自分たちなのだろう。

それでも止められない。手を止めることは出来ない。

 

額にかいた期待の汗がダラりと垂れて地面に落っこちた。

 

その様はまるでオゾン層から落ちてくる魔法少女のようだった

 

 

292:名無しさん:2023/10/10(火) 01:55:03 ID:aFbJMD1o0

 

 

 

『魔法少女に愛の手を!彼女たちに救いを!』

 

今日もテレビの中では彼女たちのことが流れている。

 

 

『今も我々のためにオゾン層で戦う彼女たちは希望の星です!』

 

何かを期待するような声が流れている。

 

 

『称えましょう!祈りましょう!彼女たちは今も頑張っています!』

 

果たしてそれは何の期待なのか。

 

作ったものにしかきっとわからない。

殆どの人は何も知らない。

 

 

『魔法少女はオゾン層で戦いを続けています!』

 

ただ一つ言えるのは。

 

 

 

『―――彼女たちに愛の手を!』

 

 

 

期待に邪な気持ちがないとは限らないということである。

 

 

 

 

魔法少女が落ちてきたようです。ㅤㅤ了

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