ブーン系
食と旅の秋祭り
29
ξ゚⊿゚)ξ 幽世の森に棲まうようです
1:名無しさん:2023/10/06(金) 00:07:10 ID:0LY.A9Ao0
きみに名前をあたえよう。
どうか健やかな日々を過ごせるように。
どうか腹をいっぱいに満たせるように。
どうか愛にあたたかく包まれるように。
今度こそは、きっと幸せな最期になるように。
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2:名無しさん:2023/10/06(金) 00:10:15 ID:0LY.A9Ao0
第一幕 ■ 微睡む未明
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3:名無しさん:2023/10/06(金) 00:10:49 ID:0LY.A9Ao0
「──て」
「ツ─」
「─ら、───」
「……──?」
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4:名無しさん:2023/10/06(金) 00:12:59 ID:0LY.A9Ao0
声がする。
聞き取れないけれど、なにか、語りかけるような声が聴こえる。
ぼんやりとした意識で手を伸ばそうとするけれど、うまくいかない。
身体が動かないというより、動かす身体そのものがないような、違和感。
心がシンと冷えてきて目を凝らす。
何も見えない。暗闇だ。
声は相変わらず聴こえていて、やっぱりなにか語りかけているようだったけれど、聞き取れない。
一つだけ確かなのは、それは自分に向けられたものではないということだ。
あきらかに、誰かの名前を呼んでいる。
やがてパチリと明るくなった。
目を擦る。また、違和感があった。
今、自分の意思とは無関係に動いたような──
〝身体〟は不可解に思う意識を置き去りにして、起き上がりざまにゆったり伸びをすると、もたもたと名残惜しげにベッドを降りた。
視界にかわゆくうねる金髪が揺れるのに、何故だかギクリとして息を呑んだ。
姿見を前に、慣れた様子で髪を結(ゆわ)く。
ξ゚⊿゚)ξ
一瞬、己の不可解な状況も忘れて呆けてしまうほど──それこそ、作りもののように美しい少女がそこに居た。
視界は明瞭、それどころかサラサラとした髪の手触りまではっきりと感じ取れる。
どうやら己が意識は、この少女の身体のなかに閉じ込められているようだった。
……あまりにも突拍子のない話だが、そうとしか形容のしようがない。
夢、だろうか。
それにしてはいやに鮮明で、すべての感覚が生々しい。
少女はやがて朝の身支度を整えると、部屋を出てぱたぱたと階下に降りていく。
家は不思議な構造をしていた。
どうにも巨大な樹をそのまま家のかたちに組み替えたような様相で、そもそも壁や床というにはあまりにも樹木の表皮じみていた。
手すりや扉にはところどころ蔦が絡んでいたり、小さな花が咲いていたりと、およそ人間による建築ではないことが見て取れる。
明かりもまた異質だった。
小さな炎が各所に浮いた硝子(のように見える)球の中でちらちらと揺れては、少女が通り過ぎると消えていく。
5:名無しさん:2023/10/06(金) 00:16:21 ID:0LY.A9Ao0
あきらかに魔法だった。
さすがにたじろぐ。
魔法なぞ、人間には扱えるはずもない。
そもそもが幽世(かくりよ)に棲まう幻物(まもの)の性質であって、狩りの術に過ぎないはずだ。
それをよもや住処としての構築物に使用するなど、有り得ない。
あまりに文明的すぎる。
理解が追いつかず困惑していると、視界がフッと暗くなった。
何も見えないわけではない。
少女の身体を〝影〟が覆っていた。
見上げた少女の顔がパッと華やぐのがわかる。
ξ*゚⊿゚)ξ「くるうさん、おはようっ」
果たして、視界を覆った〝影〟の正体にキンと心臓が凍り付く。
全身から血の気が失せるような錯覚。
床から天井まで届く巨大な体躯をぐにゃりと折り曲げるようにして、ソレは立っていた。
川 - 々゚)「……おはよう」
闇より濃く、昏く、底の見えない影の主。
身体そのもののようにも、纏った服のようにも見えるその黒は、かろうじて人のかたちをしていた。
折り曲げた体躯の先には面の張り付いたような顔があり、少女をみつめて優しげにゆったりと微笑んでいるのが、むしろ不気味だった。
長い黒髪はぼどぼどと液体の如く床に垂れては、落ちたそばから気体のようにほどけて、身体と混じりあっている。
悪夢にかたちを与えたなら、きっとこのような不定形な存在になるだろう。
どう見たって人間ではない。
だが、幻物にしては……人間に似すぎている。
この奇異なる存在は、歯車の噛み合わない奇妙なこの家とあまりに似通っていた。
要は、彼こそがこの場所の主なのだろう。
ξ-⊿゚)ξ「くるうさん、今朝、起こしに来たでしょう?」
少女は不定形な彼をくるうと呼ぶ。どうやらそういう名らしい。
目を眇(すが)めたくるうの真似をしながら芝居がかった仕草で仁王立ちをする。
6:名無しさん:2023/10/06(金) 00:18:10 ID:0LY.A9Ao0
川 ゚ 々゚)「どうかな」
ξ゚⊿゚)ξ「絶対そうよ! 夢で見たもの」
川 - 々-)「バレちゃあしようがない」
ξ*゚⊿゚)ξ「やっぱりっ」
勢いのまま飛びつく少女をくるうは難なく受け止める。
黒い液体じみた長髪が顔にかかるのをくすぐったそうにして、少女は甘えている。
……気が狂いそうだった。
理由は、正直、わからない。
わからないがとにかく、とにかく、とにかくとにかくとにかく恐ろしくて堪らないのだ。
この、くるうと呼ばれるバケモノが。
川 ゚ 々゚)「……」
何を映しているのだかわからない、真っ黒な瞳が、ジッとこちらを見つめている。
こちらではない。違う。少女の瞳を、見ているのだ。
だが、その奥にいる己まで──
ξ゚⊿゚)ξ「どうしたの?」
川 ゚ 々゚)「……いいや」
フイ、と目を逸らすとどうでも良さそうにそう言った。
後ろ手でするりと少女の頭を撫でる。
川 ゚ 々゚)「身体は大丈夫かい」
ξ゚⊿゚)ξ「からだ?」
そのまま執拗に、頭を撫でる。
それはどこか不具合の有無を丁寧に確認するような手つきだった。
ξ*-⊿-)ξ「おかしなくるうさんね。わたくし、とっても元気だわ」
川 ゚ 々゚)「……そうかい。なら、よかった」
7:名無しさん:2023/10/06(金) 00:28:37 ID:0LY.A9Ao0
穏やかに甘える少女とは裏腹に、その身体の裡(うち)でひたすらに息をひそめて恐怖に耐えた。
何故だか、確信があったのだ。
絶対に気付かれてはいけない。
ここに己が意識のあることを勘づかれてはならないと、そう思えてならなかった。
くるうが人ならざるものであろうことを差し引いても、およそ尋常ではない激しい忌避がせぐりあげる。
大袈裟なまでの警鐘を落ち着けようと、ただただ少女の視界に意識を向けた。
少しでも気を紛らわせたかったのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「わたくし、お腹がすいたわ」
当の少女はぽけっとそんなことを言う。
くるうはぴたりと少女の頭を撫でるのをやめると、ああ、と頷いた。
川 ゚ 々゚)「トーストの準備があるよ」
ξ*゚⊿゚)ξ「やったあ」
ふわふわとスカートを揺らしながら少女は手早く朝餉(あさげ)の支度をする。
キッチンには色とりどりの木の実や、干した果物が詰まった瓶がいくつも並んでいた。
しゃがみこんで床下の戸を開ける。
空気がうっすらと冷たい。冷所のようだった。
ξ゚⊿゚)ξ「んしょ」
取り出した葉野菜をぱりぱり千切ると、酢とオイルを混ぜたドレッシングをかける。
最後に瓶から取り出した木の実を砕いてちらした。サラダのようだ。
テーブルに運ぶと既に香ばしく焼けたパンの匂いがいっぱいに満ちていた。
皿の上でおさまるトーストは、ハムの上にこぼれんばかりのチーズがとろけている。
このときばかりは少女と一緒になって腹を鳴らした。
ξ*゚⊿゚)ξ「!!」
川 ゚ 々゚)「……ほら、お座り」
8:名無しさん:2023/10/06(金) 00:35:47 ID:0LY.A9Ao0
少女はテーブルに駆け寄ると、ほとんど飛び乗るように椅子に腰掛けた。
そうして香ばしく焼かれたトーストを口いっぱいに頬張ると、火傷しそうなほど熱いのに飛び上がりそうになりながら、少女の味覚まで感じられることに驚く。
ξ*-⊿-)ξ「ん~~~~~!」
川 ゚ 々゚)「おいしいかい」
くるうはパンくずをこぼして食らいつく少女をぼうっと眺めている。
ξ*゚⊿゚)ξ「俺(わたくし)は不満げね。こんなに美味しいのに、なまいきだわ」
川 - 々゚)「ふ、ふふ。そうだね、好き嫌いはよくない」
ξ゚⊿゚)ξ「あっ! わたくしは好き嫌いなんてしないのよ」
ξ-⊿゚)ξ「なんでも美味しく食べられるんだからっ」
少女がくるうの真似をして自慢げにそう言うのを、つと引っかかる。
くるうも少女も自然と会話していたけれど。
いま、なにか、おかしくなかったか?
違和感に気を取られている間にも、少女はサラダをつつき、ミルクを飲み干し、小さな体のどこにそんな容量があるのか不思議なほどぺろりと朝餉(あさげ)をたいらげた。
ξ゚⊿゚)ξ「相変わらず、あたし(わたくし)は野菜がイヤみたい。こんなに美味しいのに」
川 ゚ 々゚)「そんなことを言って、好きになったのも最近だったろう」
ξ゚⊿゚)ξ「あれ? そうだったかしら」
川 - 々゚)「調子のいい子だな」
逆にくるうはトースト以外にはほとんど手をつけていない。
あくまでも食事をするポーズを取っているだけ、そんな印象を受けた。
川 ゚ 々゚)「今日は出掛けてくるから。あんまり、遠出はしないように」
ξ゚⊿゚)ξ「はぁい」
空になった皿は、くるうが片手をなにやら動かすとパチンと綺麗になった。
少女はそれらを片付ける。
ξ゚⊿゚)ξ「どこまで行くの」
川 ゚ 々゚)「街まで。森に入る者がいたからね」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなの?」
川 ゚ 々゚)「……ああ。だから、すこし、釘を刺しに」
9:名無しさん:2023/10/06(金) 00:36:47 ID:0LY.A9Ao0
言葉は重く、昏く、響いた。
……少女はきょとんとしていたけれど、くるうの言葉にはあきらかに怒りが滲んでいた。
森。
入ってはならない森と言えば、ひとつしかない。
・・・・
幽世の森だ。
.
10:名無しさん:2023/10/06(金) 00:39:31 ID:0LY.A9Ao0
暫くしてくるうが出ていくと、ようやく気が楽になった。
よほど緊張していたのだろう。
見えているのは相も変わらず少女の目線ではあるのだが、なにだか、狭まっていた視野が広がるような感覚があった。
ことのほか安心している己に戸惑いを覚えるほど、くるうの存在は恐ろしかったのだ。
当の少女といえば、くるうを見送り、食器をすべて片付けきったのち、鏡を前にちいちゃな歯をていねいに磨いていた。
見れば見るほど、いっそ精巧な人形と言われた方が納得できるほどに整った顔立ちをしている。
くるうと少女の関係は謎そのものだった。
くるうはきっと、人間では無い。
しかし、幻物と断定するには疑問が残る。
幻物とは幽世の〝獣〟だ。
だが少なくとも彼は、生存本能に支配されるだけの愚かな獣には見えなかった。
もちろん、凶暴なようにも思えなかったのだが。
そうであれば、しかし、己は彼の何に怯えているのだろう。
……わからない、わからないのだ。何も。
思い出せない。
何ひとつとして、己のことがわからない。
少女の視界が、身体の感覚が、己が意識に馴染んでいくほど不安になった。
このまま意識すら馴染んで掻き消えてしまえば、そこには何が残るというのだろう。
ξ゚⊿゚)ξ『僕は……』
ξ゚⊿゚)ξ「えっ」
ξ;゚⊿゚)ξ『あ?』
ぽとりと歯ブラシを取り落とす。
鏡の中の少女は物凄く驚いた顔をしている。
今、たしかに、身体が動いた。
ξ;゚⊿゚)ξ『どうなってんだ、コレ』
ξ゚⊿゚)ξ「ほんとうに。わたくし、どうしちゃったんだろう……」
鏡の中の少女と会話をする。
おかしな心地だった。
他人の身体から自分の声が出ることも、当たり前のように鏡に向けて会話しているのも、尋常のことではない。
傍から見れば、少女の気が触れてしまったように映るだろう。
11:名無しさん:2023/10/06(金) 00:41:43 ID:0LY.A9Ao0
ξ;゚⊿゚)ξ『そうだ、お前はなにかわからないのか? 僕は、僕のことが何も分からなくて』
ξ゚⊿゚)ξ「ぼく? おかしなことを言うのね。僕(わたくし)は、わたくしでしょう」
ξ;゚⊿゚)ξ『ハァ? 僕は僕で、お前はお前だろう。なにを言ってるんだ』
ξ゚⊿゚)ξ「でもお話ししている僕(わたくし)だって、わたくしの身体よ」
なにだか会話が噛み合わない。
少女の言っていることが理解出来ないのと同じように、少女もまた己の言葉がピンとこないようだった。
ξ;-⊿-)ξ『お前は僕とお前とが同一の存在だと言いたいのか?』
ξ゚⊿゚)ξ「違うの?」
それは残酷な問いだった。
己とは、過去も未来も、自己すらなく、不意に生じた少女の別なる人格のひとつ。
そう断じてしまえば、もう、思い悩むこともないのだろうか。
だが。
ξ゚⊿゚)ξ『違う。僕は、絶対に僕であるはずなんだ』
己とは、僕だ。
僕(ぼく)であり、わたくしではなく、断じて少女と同一の存在などではない。
その瞬間、唐突に思い出した。
ξ゚⊿゚)ξ『──なにせ、僕にはディという名前がある』
そうだ。
己は、僕は、ディ。
……この名前すら少女と同一であったなら。
頭の片隅で恐怖が首をもたげるが、踏み潰して問いかける。
ξ゚⊿゚)ξ『お前はなんていうんだ』
ξ゚⊿゚)ξ「……」
少女は心底不思議そうに鏡の中の己を見つめる。
やがて、ぽつりと答えた。
ξ゚⊿゚)ξ「ツンよ。わたくしの名前は、ツン」
その返答に、僕は内心そっと胸を撫で下ろすのだった。
12:名無しさん:2023/10/06(金) 00:43:30 ID:0LY.A9Ao0
ツンは自室に戻ると姿見の前に椅子を引き、向かい合うように腰掛けた。
どうやら身体を動かす優位はあきらかに彼女の方にあるようだった。
あくまでも〝ツンの身体〟ということなのだろう。
ξ゚⊿゚)ξ「……不思議ね。ほんとうに、不思議なのよ。だって、わたくしの裡(うち)に在るのだから、わたくしでないとおかしいはずなのに」
どこか呆然と鏡に映る己(ぼく)に語りかける。
ほとんど独り言のような口調だった。
事実、身体はひとつしかないのではあるが。
ξ゚⊿゚)ξ『さっきから気になっていたんだが、お前の中には、なんというか……お前ではない存在がいるのか?』
ξ゚⊿゚)ξ「ええと、わたくしはわたくしだけど」
ξ゚⊿゚)ξ『でも僕は僕(ぼく)だったろう』
ξ゚⊿゚)ξ「……それも、そうね」
そう返すとツンはううん、と頭を抱える。
しばらく言葉を探している様子だったが、やがてお手上げといった様子で口を開いた。
ξ;-⊿-)ξ「ええと、ちょっと待って、待ってね。このまんまじゃわたくし、頭が混乱しちゃうの」
そう言って立ち上がると、ベッドに並べられたぬいぐるみのひとつを手に取った。
年季が入っているのか薄汚れてはいるが、ところどころ丁寧に縫い直されてもいる。
長い間、大事に大事に懐に置いているような風情だ。
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっとだけ我慢してね」
え?
声が出ない。
あれっと思うと同時に、身体が軽くなるような錯覚を覚えた。
瞬間。
13:名無しさん:2023/10/06(金) 00:45:27 ID:0LY.A9Ao0
(い、痛い!いたいいたいいたい!!!)
それは冷たく吹きすさぶ風の中、素っ裸で野ざらしにされたような心地だった。
肌を刺すどころか、貫くような痛み。痛み。痛み。
バラバラにちぎれてしまう、本気でそう思うほどの苛烈な痛みが絶え間なく全身を襲う。
見れば、視界もおかしかった。やけに開けている。
なにだか広すぎる。
・・・・・・・・・・
ツンの姿が見えている。
ξ゚⊿゚)ξ「ごめんね。一瞬だけだから……ほら」
ばつん!と意識が途切れるような衝撃が走った。
視界が暗転する。打って変わって、暗闇。
シンと静まり返って、何も見えない。きこえない。
不安に駆られるけれど、先程までの耐え難い痛みはさっぱりと消えていた。
「─こえる?」
……?
「ね─」
ツンの声がする。
暗闇が、少しづつ晴れていく。
「……大丈夫かしら…」
『なにが?』
ξ*゚⊿゚)ξ「あ! 大丈夫そうね。よかったあ」
ハッとする。
見れば、安心したようにほころぶツンの顔が目の前にあった。
14:名無しさん:2023/10/06(金) 00:50:16 ID:0LY.A9Ao0
『……え?』
声は出なかったが、話している感覚はある。
なにより、ツンに届いている。
『なにこれ。テレパシー?』
ξ*゚⊿゚)ξ「わたくしもちょっとヘンな感じがする。頭の中で考えてるはずの声が、外から聞こえてくる感じ!」
ぜんぜん伝わらない。
ハアと思って見返すも、ツンはむしろ得意げだ。
ξ-⊿゚)ξ「見てみて」
鏡が置かれた。
ところどころぬい直されて不格好な、ねこのぬいぐるみが座っている。
(#゚;;-゚)『何だこれ?』
……ぬいぐるみが首を傾げた。
(#゚;;-゚)『え、は!!? 動いたんだ、が』
飛び上がるように立ち上がり、あれっと思う。
物凄く、いやな予感がした。
(#゚;;-゚)『……おい、うそだろ』
ξ゚⊿゚)ξ「うそもなにもないわ。ディがわたくしじゃないって言うんだもの。べつの身体を用意したのよ」
(#゚;;-゚)『じゃあコレが僕ってことか?』
鏡を指差そうとして、ぽてりとまるい手がぶつかった。
つぶらな瞳がポカンと僕を見つめ返す。
ξ゚⊿゚)ξ「見てのとおりね」
今度こそ本当に気がヘンになりそうだった。
これが夢ならどれほど良かったか。
ポテポテとした愛らしいねこのぬいぐるみは、いっそ気持ち悪いぐらい自在に動く。
思わずへたりと座り込んだ。
15:名無しさん:2023/10/06(金) 00:54:55 ID:0LY.A9Ao0
(#゚;;-゚)『なんなんだよ……』
ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、ディはどこからきたの?」
(#゚;;-゚)『へっ?』
ξ゚⊿゚)ξ「わたくし、生き物を拾ってきてはいけないって言われているの。前にひろってきたときは、元いたところに返してきなさいって言われたわ」
(#゚;;-゚)『……それで。なんだ、上手く切り離せた僕は、これでようやく放り出せるってことか?』
自嘲気味に言う。
こんな姿で放り出されて、どうしろというのか。
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、あのね、ちがうの、そうじゃなくて」
ツンは慌てて僕の前にしゃがみ込んだ。
小さな僕のからだに目線を合わせたようだった。
ξ゚⊿゚)ξ「前にかえしてきたときは、親がいたのよ。幻物の子だったから、わたくし、知らないあいだにさらってしまったの」
(#゚;;-゚)『……』
ξ゚⊿゚)ξ「だから、その……ディのこと、待っているひとがいるかもしれないと、思って」
それはどこか、機嫌を伺うような声だった。
(#゚;;-゚)(僕が怒ったから?)
不思議と見下されている感じがしない。
あくまでも対等に話しているのだ。
この少女は、動くぬいぐるみを相手に。
16:名無しさん:2023/10/06(金) 00:57:40 ID:0LY.A9Ao0
いや、違う。
頭を振って立ち上がる。
(#゚;;-゚)『……僕は、人間だ』
ξ゚⊿゚)ξ「え?」
(#゚;;-゚)『だから、僕の身体を探しにいく』
ツンの袖をつかもうとするけれど、不器用なまあるい手はとても〝つかむ〟なんて器用な動作は出来そうにない。
そうして下ろしかけた手を、ツンがそっと握った。
ξ*゚⊿゚)ξ「ええ、一緒に探しましょう!」
ξ*゚⊿゚)ξ「ちょっとまってて」
言うが早いか、ツンは手際よく支度を済ませた。
荷物を詰めた大きなリュックは使い慣れたものらしく、背負った身体によく馴染んでいた。
僕はといえばキッチンから持ち出されたバスケットへ、いくつか食材を入れた端にスキマを作って、そのままピッタリ収められた。
ξ゚⊿゚)ξ「これでよし!」
全くもってよしじゃない。
唖然としている間にバスケットはグラりと大きく揺れた。
(#゚;;-゚)『ちょ、ちょ、ちょっと!』
17:名無しさん:2023/10/06(金) 01:02:01 ID:0LY.A9Ao0
風の音が聴こえる。
空気がほんの少しだけ冷たい。
(#゚;;-゚)『待てって、ば』
顔を出す。
そこはもう扉の向こう。
深く、遠く、昏く、透き通るようにうつくしい翠の底。
(#゚;;-゚)『幽世の森……』
僕は、この景色を知っている。
綿の詰まった柔らかな首のうしろを、つめたい確信が貫いた。
第一幕 ■ 微睡む未明 終
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